スエズ運河座礁3ヵ月 今なお視界不良…続く法廷闘争、600億円の賠償は…大型船は湖に係留
2021年5月31日 06時00分
【カイロ=蜘手美鶴】エジプト北部のスエズ運河で3月にパナマ船籍の大型コンテナ船「エバーギブン」が座礁した事故で、運河の運航再開から29日で3カ月が過ぎた。現在、賠償額などを巡って運河庁と船を所有する「正栄汽船」(愛媛県今治市)との交渉が難航し、訴訟へと発展。大型船は今も運河内の湖に留め置かれ、解決の見通しは立っていない。
◆1000億円→600億円に減額 船主側「160億円が妥当」
「双方の要求により、期日を延期する」。北部イスマイリアの裁判所で29日、裁判長がこう言い渡して法廷を閉じた。運河庁側と船主側はこの日、訴訟の進行ではなく期日延期を求めた。訴訟より交渉での解決を優先させた形だが、合意への先行きは不透明だ。
国際海運の要である運河が6日間止まったことで、運河庁側は船主側に9億1600万ドル(約1006億円)の賠償を求めたが、船主側が異を唱え、同庁側が提訴。その後5億5000万ドル(約600億円)に減額されたが、船主側は1億5000万ドル(約160億円)が妥当と主張するなど、折り合いがつかない。
◆船長の操作ミス? 運河庁の判断ミス?
訴訟では事故責任も争点。同庁側は「船長の操船ミス」を理由に船主側の責任を問い、船主側は「悪天候で航行を許可した同庁側の判断ミス」と主張している。また、「船長の責任と船主の責任は別」とも反論する。
賠償金交渉が続く中、大型船は現在も運河の中間のグレートビター湖に係留されたままだ。運河庁は乗組員数人の下船は許可したものの、積み荷の搬出は許さず、あくまで賠償問題の解決が先との態度を崩さない。賠償金を支払えない場合は、積み荷や船の売却による支払いを求めている。
◆対策は着々 複線化、救助船導入…
また、今回の事故を受け、運河の安全対策も始まった。運河庁は5月中旬、運河の一部区間の拡張計画を発表。座礁現場を含む約30キロ区間の運河幅を約40メートル広げ、別の約10キロ区間では運河を複線化する。すでに一部で着工したほか、新たに救助船も導入した。
運河利用者側でも悪天候での航行を避けるなどの動きが出ており、地元の船舶運航会社のナセルさん(51)は「スエズ運河以外の選択肢はほぼないので、どれだけ安全に航行できるかが重要になってくる」と話した。
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