イラン大統領選まで1週間 7人中5人の候補が保守強硬派、有権者は「ライシ師ありき」「選択肢ない」と冷ややか

2021年6月12日 22時34分
 【カイロ=蜘手美鶴】18日投開票のイラン大統領選まで1週間を切った。7候補が支持を訴える中、世論調査では反米を掲げる保守強硬派の司法府代表ライシ師が大幅リード。5候補が強硬派という偏った顔触れに、有権者は「選択肢がない出来レース」と冷ややかな反応で、低投票率が懸念される。
 「大統領になったら現政府高官を裁判にかける」。強硬派で精鋭軍事組織「革命防衛隊」元司令官のレザイ氏が、5日のテレビ討論で語気を強めた。保守穏健派のロウハニ政権に米制裁を招いた責任があるとし、他の強硬派候補も公約より政府批判に時間を割いた。
 選挙には約590人が立候補したものの、強硬派が支配する「護憲評議会」が最終的に7候補に絞った。ライシ師以外は知名度が低く、当初から「ライシ師ありきの選挙」とも指摘されていた。最高指導者ハメネイ師が「選挙は経済問題が主」と述べたこともあり、各候補の公約はインフレ対策や産業活性化、貧困層支援などが中心。ライシ師も年100万人の雇用創出や若者支援を掲げている。
 ハメネイ師は自身と同じ強硬派の大統領を望んでいるとされ、ライシ師は次期最高指導者とも言われるほどハメネイ師と近い。外交も同師と同じく米制裁解除を最優先し、核合意再建協議は「米国が制裁解除すれば(核開発規制は)順守する」との立場だ。
 こうした中、強硬派批判を強めるのが、中道の中央銀行前総裁ヘンマティ氏だ。テレビ討論では「イランを孤立させたのは強硬派だ」と指摘し、AP通信の取材には「大統領になったらバイデン米大統領と会談する」と踏み込んだ。
 今回の選挙では、穏健派や改革派が資格審査で排除され、強硬派への批判票が行き場を失っている。ヘンマティ氏は批判票の取り込みを狙うが、どこまで票に結び付くかは未知数だ。エジプトのイラン研究機関「アラブフォーラム」のアラー・エルサイード研究員は「ライシ師当選は既定路線で、選挙は『イランは民主主義国家だ』と示すショーにすぎない」と述べた。

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