ハラスメント禁止条約発効も、日本は批准への動き鈍く…経済界への配慮か

2021年6月28日 06時00分
 職場でのセクハラやパワハラなどハラスメント行為を禁じる初めての国際労働機関(ILO)条約が25日発効し、ハラスメント根絶に向けて国際社会が動きだした。一方、日本政府は批准に消極的。ハラスメントを防ぐための国内法も、就活生らは保護の対象外になるなど、条約が求める水準にはほど遠い。(岸本拓也)

◆「ハラスメントは人権侵害」と認識を

 条約は、2019年のILO総会で、日本政府を含めて9割超の賛成で採択された。2カ国が批准し、その1年後に効力を発する。昨年6月にウルグアイに続き、フィジーが批准し、発効要件を満たしていた。
 これまでにアルゼンチンなど新興国を中心に6カ国が批准。先進国でも、欧州委員会が加盟国に批准を促すなど、批准に動く。ILOのガイ・ライダー事務局長は、条約発効に先立って開いたオンラインイベントで「暴力とハラスメントのない世界に近づくため、良いスタートを切った」と笑顔を見せた。
 条約は、ハラスメントを「身体的、精神的、性的、経済的危害を引き起こす行為と慣行」などと定義し、それらを「法的に禁止する」と明記。労働者だけでなく、求職中の学生やフリーランスなども保護の対象とした。神奈川大の近江美保教授(国際人権法)は「条約は、ジェンダー(社会的・文化的性差)差別を含め、広く被害者を救い上げようとしている。批准国が増え、『ハラスメントは人権侵害』という認識が広がることが望ましい」と話す。

◆ILO総会では賛成したのに…

 ただ、日本政府は条約の採択に賛成したにもかかわらず、批准には後ろ向きだ。条約が求めるハラスメント行為の「禁止規定」を法律に盛り込むと、損害賠償の根拠規定となって訴訟が増えることを懸念する経済界への配慮が背景にある。
 昨年6月に女性活躍・ハラスメント規制法が施行され、大企業にパワハラ相談窓口の設置などが義務付けられた。しかし、禁止規定はなく抑止力に欠けるうえ、就活生やインターンなどは被害者として法律に明記されなかった。

◆まずは国内法改正を急いで

 職場のハラスメントを巡る相談は右肩上がり。最近も、近鉄グループホールディングスの採用担当者による就活生へのセクハラが明るみに出るなど、被害は後を絶たない。厚生労働省が昨年実施した調査では、就活中やインターン中の学生の4人に1人がセクハラ被害に遭っている。
 日本労働弁護団の新村響子弁護士は「現行法は被害の範囲も狭く、被害防止に十分な内容とは言えない。条約批准に向けて国内法の改正議論を急ぐべきだ」と指摘する。

 ILO条約 国際労働機関(ILO)が労働環境の改善を目的に定める。批准国は条約に沿った国内法整備を求められる。強制労働・児童労働の禁止など分野は広く、これまで190条約が制定された。日本は、労働時間規制を批准していないなど、批准数は49条約と先進国平均を下回る。条約とは別に、各国の事情に考慮して改善を求める勧告もあるが、拘束力はない。

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