賛否渦巻く異例の「つぶやき」弾劾裁判 「三権分立のバランス乱す」「厳しい判断やむを得ない」

2022年3月3日 06時00分
 会員制交流サイト(SNS)などでの不適切な投稿で訴追された岡口基一判事(56)の弾劾裁判。業務外の発信で罷免するべきかどうかが問われる事態に、法曹界には「裁判官の表現行為の萎縮を招き、三権分立のバランスを乱す」との懸念が広がる。一方「今の時代、SNSでの暴言には厳しい判断もやむを得ない」との声もある。(小沢慧一)

◆裁判官につぶやく自由ないのか

 「表現行為で法曹資格まで奪われるのは、明らかに行きすぎだ」
 2日、裁判後の記者会見で、岡口氏の代理人で「不当な訴追から岡口基一裁判官を守る会」の野間啓弁護士は訴えた。「守る会」への賛同者は弁護士や憲法学者、元裁判官など3000人を超え、各地の弁護士会からも、罷免反対や慎重な審理を求める声明が相次ぐ。
 岡口氏は裁判官には珍しく、話題の判決などをツイッターなどで実名で「つぶやく」ことで知られる。だが、自身の白ブリーフ姿の投稿や今回問題となった投稿で2016年以降、2度の厳重注意を受け、分限裁判では2度戒告となった。
 弾劾制度が発足した1947年以降、訴追された過去9件は、関係者からの利益供与などの不正や盗撮、児童買春などの刑法違反。一方、今回は民主主義の根幹をなす「表現の自由」に関わり、「裁判官にはつぶやく自由すらないのか」との批判も上がる。
 「守る会」の亀石倫子弁護士は「国会の司法への過剰な介入が続けば、裁判官は権力者の顔色ばかりうかがうようになる。国民が公平な裁判を受ける権利を損なうことにつながる」と懸念する。

◆言葉のナイフでさされているようだ

 「言葉のナイフで刺されているようだ。全く反省していない」。東京都内の女子高校生殺害事件の遺族で、岡口氏を訴追請求した岩瀬正史さん(52)は、SNSなどで繰り返される侮辱的なコメントに、悔しさをあらわにする。
 岩瀬さんによると、岡口氏は事件を巡るツイートで東京高裁から厳重注意を受けた際、「この件に関する一切の投稿や書き込みをしないことをお約束する」と述べたという。だが、その後も止まらず、19年11月には「(遺族は)俺を非難するようにと東京高裁事務局に洗脳された」などと書き込んだ。その日は被害女性の命日だったといい「約束を破って投稿を繰り返し、遺族の気持ちを踏みにじる。こんな人が裁判官でいいのか」と岩瀬さんは憤る。

◆謝罪しながら繰り返すのが「表現の自由」?

 同じ裁判官からも冷ややかな目が向けられている。あるベテラン裁判官は「謝罪しながら、その後も繰り返している。『表現の自由』の問題と言えるのか」と首をひねる。
 拡散しやすいSNSでの誹謗中傷は、プロレスラー木村花さん=当時(22)=が自死した事件などを受け、被害の深刻さが重視されるようになってきた。「侮辱罪」を厳罰化する刑法改正の動きなど、厳しく対応する流れがある。
 この裁判官は「近年登場したSNSを巡る事件は、過去のケースとは比較しにくい。弾劾裁判では、そうした時代の変化も踏まえて判断されるのではないか」とみる。

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