今さら人に聞けない…大谷翔平のMVP争いで話題の「規定投球回」って?メジャー史上初の「W規定」到達なるか

2022年9月19日 22時36分

マリナーズ戦で先発し13勝目を挙げたエンゼルス・大谷翔平投手=17日、米ロサンゼルス州で(AP)

 エンゼルスの大谷翔平投手(28)は17日(日本時間18日)のマリナーズ戦で7回を投げ、8奪三振、無失点で13勝目を挙げた。今シーズンも残り17試合となり、2年連続最優秀選手(MVP)への期待が高まっている。その強力なライバルがヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手(30)だ。圧倒的な打力か、唯一無二の「二刀流」かー。比べることは難しいが、判断材料の一つとして最近注目されているのが「規定投球回」だ。野球ファンには聞き慣れた野球用語だが、「分かるようではっきり分からない」「それってそんなにすごいこと?」という人もいるのでは? 投打で「W規定」到達となればメジャー史上初の快挙で、MVPをグッと引き寄せることにもなるだろう。プロ野球の「規定」についてまとめてみた。(デジタル編集部・竹村和佳子)

◆打撃だけならジャッジが断トツ、でも大谷は104年ぶりW2桁

 17日の試合を終えた時点で、ア・リーグ個人成績主要部門のランキングが下の表だ。大谷は投打両方で上位に顔を出し、打撃部門に関してはジャッジがその大谷をしのぎ、三冠王も視野に入れている。
 MVPは全米野球記者協会会員30人の投票によって決められる。1人ずつ見れば、どちらの数字も文句なしに素晴らしいが、どちらか1人を選ぶとなると難しそうだ。
 昨年は、48本塁打で本塁打王を獲得したゲレーロJrらと最終候補に残り、大谷が満票で選出された。ゲレーロより本塁打数は2本少なく無冠でも、メジャーの長い歴史でも希少な「二刀流挑戦」という付加価値が評価された格好だ。
 今年はその「二刀流」がさらに進化。「野球の神様」と言われたベーブ・ルースが1918年に記録(13勝&11本塁打)して以来、104年ぶり2人目となる「2桁勝利&2桁本塁打」をクリア。17日の勝利で当時のルースの13勝に並び、本塁打は34本。シーズンを通して、投打とも安定した活躍を見せている。

◆「規定」は「率」に関わるタイトルの前提条件

 その「シーズンを通して」という部分が客観的な数字で表されるのが「規定投球回」と「規定打席」だ。
 どちらも「率」に関わるタイトルの前提条件となっており、公認野球規則によれば、最優秀防御率は「そのリーグで1クラブあたりに組まれている試合総数と同数以上のイニングを投球していなければならない」、首位打者(最高打率)や長打率、出塁率は「試合総数の3.1倍以上の打席数を必要とする」と明記されている。この基準は日米とも同じだ(2軍、マイナーリーグでは異なる)。
・規定投球回=チーム試合数と同じ
・規定打席=チーム試合数×3.1
 「率」で争う場合は、分母になる数が少ないと1球、1打で大きく数字が変わってしまう。1試合で1イニングを無失点で抑えたら防御率は0.00で、1打席のみで1安打打てば打率100%だが、それだけでタイトルを取れたらおかしな事になってしまうので、一定の投球回数、打席数を重ねられた選手だけを対象にしようということだ。日米プロ野球の公式ホームページや新聞などの「個人成績」も、規定以上の選手しか表示していない。

◆エース級投手、レギュラー打者の証し

 規定をクリアしようとすれば、先発投手ならシーズンを通して1試合5イニング以上、週1ペースくらいで投げていき、打者なら1試合3、4打席ずつほとんどの試合に出場することになる。つまり、規定到達選手というのはエースクラスのローテーション投手であり、打者ならレギュラー選手を示す指標とも言えるだろう。

ヒットを放つ大谷翔平(AP)

 どのくらいの選手がいるか。昨シーズンの日本のセ・リーグを例に取ってみると、1球でも登板した投手は6球団合計で169選手いたが、規定投球回に到達したのはわずか9人。また、1度でも打席に立った選手が計255人で、規定打席に到達は32人しかいなかった。
 一方、最多勝や本塁打王など、単純に数字を積み重ねて最も多い人が取るタイトルは、出場試合が少ないほど達成が難しくなるので規定は必要ない。
 ちなみに、ヤクルトのバレンティンは2012年、故障で約1カ月戦線離脱し規定に24打席足りなかったが31本塁打放ち、日本では唯一、規定未到達での本塁打王となっている。首位打者も、足りない打席分はすべて凡退として計算し、それでも他の選手を上回れば未到達でも獲得可能だが、過去に例はない。

◆大谷は昨年初めて規定打席到達

 大谷に話を戻すと、日米を通じてチームの主力選手として活躍してきたわりに、規定に到達した年は少ない。下表のように、日本ハム時代には、投手としては14、15年の2度あるが、打者としては1度も到達しなかった。メジャー移籍後は、投手としては一度もなく、打者としては昨年初めて到達した。
 投手と野手では練習の仕方や量も違い、両方やるということは体に大きな負担がかかる。ただでさえ、プロはアマチュアと違って試合数が多くシーズンが長丁場。高校までは「エースで4番」という二刀流選手は多くても、プロになればどちらかに専念するのが常識だった。
 その常識を打ち破ったのが大谷だ。まだ体ができていない高卒で大谷を預かった当時の日本ハムは、ダイヤモンドの原石である大谷を壊さないよう、かなり慎重に育成プログラムを組み、登板間隔は中6日以上、その間の野手出場は3試合程度に抑えるなど、体に負担を掛けない起用法に腐心していた。

◆記憶にも記録にも残る選手へ…

 そのため、特に打撃の規定に到達することは難しく、関係者の中には「二刀流を続けているとタイトルを取ることができない。どちらかに専念すれば投打どちらでも一流の数字を残せるのに、もったいない」という声もあった。

打席に入る前、ボールを指さした大谷翔平(AP)

 18年オフに右肘靱帯じんたいを手術し、19年は打者に専念。その後も右肘痛の再発、左膝の手術、新型コロナウイルスの流行によるシーズン短縮など、さまざまなことを乗り越え、メジャー選手に引けを取らないほど体を鍛え、昨年初めて、ローテ投手として回りながら野手としても試合に出続ける二刀流の「完成形」が実現。メジャー移籍後初めて、野手として規定打席にも到達した。
 現在大谷は、打っては既に規定打席をクリア。投げては148イニングで、規定投球回まであと14イニング。エンゼルスのネビン監督代行は残り3度登板させる考えを明かしており、故障離脱がなければ、メジャー移籍後初の規定投球回到達の可能性は高い。
 「同一年での規定打席&規定投球回W達成」となれば、ワールドシリーズが創設された1903年以降のメジャー史上初の快挙になる。希少さやインパクトだけではなく、記録に裏打ちされて2年連続MVPを引き寄せる根拠の一つになるのではないだろうか。

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