CO2「排出量取引」実証事業、中小は足踏み コストなどが壁に

2022年10月3日 06時00分
 国連の持続可能な開発目標(SDGs)の気候変動対策に不可欠な「脱炭素」への取り組みが企業に求められる中、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出削減量を市場で売買する「排出量取引」の実証事業が東京証券取引所で始まった。ただ、中小企業では取り組むことで生じるコストが負担になるなど「壁」が多く、動きは鈍い。(押川恵理子)

 排出量の市場取引 東京証券取引所が経済産業省から委託を受け、来年1月末まで試行、来年4月以降に本格稼働させる。省エネ設備の導入や植林活動などでCO2排出量を減らした企業の排出枠を、別の企業が購入する仕組み。削減目標を達成できていない企業は排出枠を購入することで排出を減らしたとみなすことができる。従来の相対取引から市場取引に転換することで取引を活発にし、価格の透明性を高める狙いがあるという。

 「CO2排出量の算出や削減には手間も費用もかかる。中小・零細企業が脱炭素に取り組むのは大変なことだ」。ばね製品など金属熱処理加工を手掛ける「タマネツ」(東京都大田区)の玉木寛之社長は漏らした。同社では「地球温暖化は無視できない問題」と、排熱を活用する発電設備の導入などを模索する。だが、資源高や円安など業界を取り巻く経営環境は悪化しており、二の足を踏む同業者も少なくないという。
 実際に商工中金が昨年7月に実施したアンケート(約5000社回答)によると脱炭素化を実施・検討していないと答えた中小企業は約8割。実施・検討しない理由として挙げられたのは、「規制・ルールがない」が42.2%と最も多く、次いで「対処方法や他社の取り組み事例などの情報不足」が39.9%だった。
 東証で始まった排出量取引も大企業の参加が目立つ。ただ、中小企業の温室効果ガスの排出量は日本全体の1〜2割に上るとされるだけに看過できない。大手製造業などは原料の調達先や販売先を巻き込みサプライチェーン(供給網)全体の削減にも乗り出そうとしているが、多くの中小企業は取引参加の前提となる排出量の把握すらできていないのが現状だ。
 そうした中、中小企業の脱炭素化を後押ししようと金融機関が動きだしている。スマート農業に取り組む農業法人サラダボウル(山梨県中央市)は農林中央金庫(農林中金)と業務提携するベンチャー企業「アスエネ」(東京)の助言を受け脱炭素の取り組みを加速させている。5月からCO2排出量を計測。排出量削減のため脱プラの包装資材を使ったり、事業所の配送方法を見直したりしている。

温室効果ガスの排出量削減に取り組む農業法人「サラダボウル」の農場=山梨県北杜市で

 巨大なビニールハウスでトマトなどを栽培している同社。以前から省エネを進め、栽培管理の観点から肥料や暖房関連のCO2排出量は調べていたが、社員の通勤など企業活動全体の排出量までは手を付けていなかった。脱炭素に向けた姿勢が評価され、既に取引先が1社増えたという。
 アスエネのサービスの費用は中小企業の場合、月額数万円から数十万円。安くはないが、「短期的な費用対効果では判断しない。先行したい」とサラダボウルの担当者は話す。アスエネは農林中金のほか、きらぼし銀行(東京)など約30行と提携し、支援企業が増えている。またりそなホールディングスは取引先を対象にCO2排出量を無償で概算するサービスを始めた。
 日本総研の大嶋秀雄氏は中小企業も「脱炭素の取り組みが遅れれば取引先を失う恐れがある。金融機関が脱炭素の技術を持つ企業などと連携し、ワンストップで多面的な支援をする仕組みが重要だ。政府も規制や助成金などでビジネスに与える影響を『見える化』するなど工夫が必要だ」と話している。

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