生命の声が響く森 日本を代表する彫刻家・戸谷成雄さん個展 近代美術館で初開催

2023年5月4日 07時50分

学生時代の作品「器Ⅲ」(1973年)

 林立する彫刻に囲まれると、太古の森に迷い込んだような気持ちになる。日本を代表する現代彫刻家戸谷成雄(とやしげお)さん(75)の展覧会が、埼玉県立近代美術館(さいたま市浦和区)で開かれている。長野県出身で一九九八年から秩父にアトリエを構える戸谷さんの、同館では初の個展。学生時代の卒業制作から近作まで、活動の全貌をたどることができる貴重な機会となっている。(出田阿生)
 会場に入ってすぐ、あまり公開されてこなかった最初期の作品が並ぶ。頭にヘルメットのようなものをかぶり、口をひき結び、耳をふさぐ男性。「見ざる 言わざる 聞かざる」を想起させる像は、愛知県立芸術大での卒業制作「器3(ローマ数字の3)」。ベトナム戦争の悲惨な状況が連日報じられる中、何もできない無力感を刻んだ自身の像だという。

彫り刻まれた木肌が岩肌にも見える「森の象の窯の死」(1989年)

 前後にゾウの鼻を思わせる突起がついた「森の象の窯の死」は、巨大なマンモスを思わせる作品だ。隆起した地層や巨岩にも見え、赤茶けた木肌には痛々しいほどびっしりと線が刻まれている。
 これは八〇年代に着手した代表作「森」シリーズのひとつ。電動チェーンソーで木材の表面を縦横無尽に彫り刻むのが特徴で、シリーズは国内外で高く評価され、数多くの国際展に参加するきっかけとなった。
 同じくチェーンソーで彫った高さ二メートルの木材が森のように立ち並ぶのは「森9(ローマ数字の9)」。一本ごとに姿が違い、古代の神殿にも、生き物の内臓にもみえる、複雑なひだやうねりが刻まれる。「人間の視線が織りなすものに関心を持って制作された」(学芸員)という。

太古の森のように柱が並んだ「森Ⅸ」(2008年)

 展示室の最後には、秩父の山々や水脈をイメージした二〇一〇年制作の作品も。宇宙から撮影した大地の起伏を、大きな板に浮き彫りにしたような作品だ。表には穴が開けられ、裏に回ると、その穴に耳をあててかがむ人体のような塊の彫刻が置かれ、ハッとさせられる。
 展示は十四日まで(月曜休館)。午前十時〜午後五時半。一般千二百円、高校・大学生九百六十円、中学生以下無料。

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