<フロンティア発>過酷な環境を生き延びる? 細菌が持つウイルス遺伝子   

2023年5月7日 11時15分
 多くの細菌の細胞中に、過去に感染したウイルスの一部が受け継がれて残っていることが明らかになってきています。筑波大、東京大、日本大などの研究チームは、細菌に残されたウイルスの一部分が、過酷な環境を生き延びるのに役立っていることを突き止めました。

ウイルスの残骸の役割が分かった放線菌=永久保さん提供

 細菌に感染するウイルスは「ファージ」と呼ばれます。ファージは脚で細菌の表面にくっつき、突き刺した尾を通して自分の設計図(RNAやDNA)を細菌に注入します。細菌の中で、設計図をもとにウイルスの部品がつくられて組み立てられ、多数のウイルスの複製ができ、最終的に細菌を壊して出て行きます。
 しかし何らかの突然変異でウイルスの複製がうまく進まないと、細菌は壊されずに生き延び、ウイルスをつくる遺伝子の一部が細菌中に残ると考えられます。
 チームでは、抗生物質などを作り出すことで知られる放線菌の一種を調べました。糸のように細長い細胞が絡み合った細菌です。放線菌にはウイルスの尾の部分をつくる遺伝子が残っており、体内でウイルスの尾が作られ、細胞の先端や側面の細胞壁付近に多く集まっていることが分かりました。
 このため、ウイルスの尾に何か役割があるはずだと考え、遺伝子を操作して尾ができない放線菌をつくり、普通の放線菌と比べました。すると、通常の環境では差がないものの、塩分や糖分の濃度が高い厳しい環境では尾を持たない放線菌は成長が遅れることが分かりました。
 厳しい環境では放線菌の細胞壁がストレスを受けて傷みます。ウイルスの尾はストレスを受けた細胞壁の補修を助けているらしいことが分かりました。チームの永久保利紀・筑波大助教は「補修のための材料をどこに運ぶかなどを指示するディレクターのような役割をしていると推測される。ただ、詳しい働きの解明は今後の課題」と話します。
 長い進化の過程で、ウイルスの尾が、放線菌の補修システムに取り込まれたと考えられます。「ウイルスと細菌が一緒に進化したといえる」と永久保さんは話します。 (永井理)

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