<東京新聞 鉄道クラブ>私鉄の貨物輸送

2023年5月8日 07時04分

秩父鉄道・長瀞(ながとろ)−上長瀞間を走るデキ105けん引の貨物列車=埼玉県長瀞町で

 新緑のまぶしい里山をバックに、厳かなモーター音を響かせる電気機関車。漆黒の貨車20両を引き、秩父の山あいへと走っていく。
 秩父鉄道デキ100形105号機は1956年製。2021年秋の全般検査で、車体全体がぶどう色に塗り替えられ、昭和の旧国鉄機を思わせる。
 埼玉県秩父市などで採掘された石灰石は、ばら積みするホッパ車に満載され、熊谷市三ケ尻のセメント工場へ。秩父鉄道の貨物収入は年約13億円。旅客収入にほぼ匹敵する額だ。
 以前は、東武や西武など首都圏の大手私鉄もセメントや砂利といった貨物輸送が盛んだった。だが、砂利採取の規制強化やトラック輸送の普及で相次ぎ撤退。
 現在、国の鉄道統計年報から日常的に貨物輸送を手がける鉄道会社を拾えば、JR貨物と同社出資の各臨海鉄道のほかは、岩手開発(第三セクター)、黒部峡谷、秩父、大井川、三岐、西濃の6社ぐらい。わずかな輸送実績を計上している名古屋鉄道も「年に1、2回、名古屋市交通局の車両を運ぶ程度」という。
 国は、温暖化やトラック運転手不足の対策として、トラックから鉄道利用へのモーダルシフトの旗を振るが、「貨物をやめた私鉄が再開する話は聞かない」と国土交通省の担当者。旅客列車に荷物を載せる「貨客混載」どまりが現状だ。
 (編集局・嶋田昭浩)

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