岸田首相長男で秘書官の翔太郎氏が公邸で忘年会 海外なら退陣ものなのに…身内に甘い政治がもたらすこと

2023年5月27日 12時00分

首相官邸を出る岸田首相。左は秘書官で長男の翔太郎氏

 岸田文雄首相長男の翔太郎首相秘書官が、昨年末に首相公邸内へ親族らを招き、忘年会を開いていたことが週刊文春に報じられた。写真を見る限り悪ふざけが過ぎる場面もあったようだが、首相は「注意した」として、更迭まではしない考え。英国やフィンランドでは官邸・公邸内のパーティーが首相退陣にまで発展したが、日本政界の身内への甘さが際立った格好だ。世襲あり、お友だち優遇あり、の緊張感なき政治は何をもたらすのか。(大杉はるか、中山岳)

◆与野党が「息子に甘過ぎ」「適切とは言えない」

 「報道は年末、親族の来訪時のもので、私も私的な居住スペースに一時顔を出しあいさつした。一方、公的スペースで報道のような行為があったことを認識したため、本人に厳しく注意した」
 26日の参院予算委員会で釈明した岸田首相。前日に記者団に「更迭しないのか」と問われ、「緊張感をもって対応してもらいたい」と続投させる意向を示していたが、あくまで「注意」で済ませる気のようだ。立憲民主党の泉健太代表は同日の会見で「息子に甘過ぎだ。公正、厳正に対処するのが普通だ」と批判。公明党の石井啓一幹事長も「適切とは言えない。大変遺憾」と苦言を呈した。
 週刊文春は、翔太郎氏が昨年12月30日、首相公邸に10人以上の親戚と忘年会を開いた際に撮影された写真を複数掲載。内閣改造時に新閣僚の写真撮影で使った階段で翔太郎氏を最前列に、同じように整列して撮影したものや、親戚とみられる男女が、外国賓客の接遇で使うホールで記者会見のポーズをとっているようなものもあり、悪ふざけが過ぎる感がある。

◆私的利用はどこまでOKなのか

 首相公邸は100年近く前に建設された旧官邸を曳家ひきやし、2005年から、首相の住宅として使われている。施設の目的は「職務の能率的な遂行を確保し、国の事業の円滑な運営に資する」(政府答弁書)ことで、第2次政権以降の安倍晋三、菅義偉両氏を除き、歴代首相が使用。一昨年就任した岸田首相も9年ぶりに入居した。
 小泉純一郎首相の政務秘書官を務めた飯島勲氏は「官邸と違い、公邸を私的に使うことは許されている。特段の公的使用はない年末だから、かまわないのでは」と話す。「私自身も知り合いから頼まれ、(公邸にある)旧閣議室で写真を撮った。安倍首相も公的、私的を問わず撮影していたはず」と続けた。

「忘年会写真」の舞台ともなった公邸の階段で、昨年8月、第2次岸田改造内閣発足の記念撮影を行う閣僚。世襲議員が多い

 一方、橋本龍太郎首相の政務秘書官だった立憲民主党の江田憲司衆院議員は、「公邸は危機管理のための公舎。大災害や北朝鮮のミサイル発射時に、徒歩圏内で官邸に駆けつけられるように多額の税金をかけてつくっている」とし、翔太郎氏らの行為を「言語道断」と批判した。
 歴代首相と異なり、岸田氏が経済産業事務次官経験者の嶋田隆氏に加えて、翔太郎氏を政務秘書官にすえた点も「2人というのは異例中の異例で、長男は仕事がないのでは」と指摘。続投の判断には「明らかに後継含みのはく付けとして政務秘書官に登用しており、更迭すれば傷がつくのでできないのだろう。いずれ世論は忘れると高をくくっているのでは」との見方を示す。
 与党議員は今回の事態をどう見ているのか。自民党の閣僚経験者は「意識が低いとしかいえない。選挙のつらさを知っていたら、こういうことはしない」と厳しい目を向ける。「結局首相の足を引っ張っている。首相も身内に甘いのか辞めさせられないが、じわじわと影響するのでは」。公明党の議員も「国会で重要案件を審議している中で、こういう報道が出ることには不快感を覚える。首相のためには、秘書官を辞めた方がいいのでは」と語った。

◆イギリスでもフィンランドでも

 海外でも、官邸・公邸のパーティーは公私混同と批判されてきた。
 英国では新型コロナ禍でロックダウン(都市封鎖)中だった2020年5月から、ジョンソン首相(当時)が繰り返し開いていたと問題に。官邸の庭に酒を持ち込んで首相やスタッフら数十人規模で楽しんだケースもあり、昨年1月公表の政府の調査報告書は「指導力の欠如と判断の誤りがあった」と認定。同7月のジョンソン氏の首相辞任表明につながった。
 フィンランドでも、昨年7月の首相公邸での私的なパーティーに批判が集まった。参加した女性2人が上半身をむき出しにした状態で「フィンランド」と書かれたカードで胸を隠すなどした写真が流出。マリン首相(当時)は謝罪した。

首相公邸

 米国の大統領が過ごすホワイトハウスはどうか。早稲田大の中林美恵子教授(米国政治)は「執務で使う公のエリアと、大統領や家族の居住エリアが別々に分かれている。居住エリアはプライバシーを尊重されるべき場所でパーティーを開くこともあるかもしれないが、セキュリティーは厳しく簡単ではないだろう。そもそも公のエリアには大人数がパーティーできる部屋もある」と解説する。
 一方、ビル・クリントン政権時(1993〜2001年)には、クリントン氏の大口献金者がホワイトハウスのゲストルームに宿泊し、物議を醸したという。「違法ではないものの特別待遇だとの批判が起きた。ホワイトハウスの管理は公費が充てられるので、倫理を問われるような使い方には厳しい目が向けられる」

◆外遊時には土産購入 厳重注意で終わり?

 首相の関係するパーティーなどが問題になるのは、権威を笠に着てビジネスをする参加者も出るからだ。
 一例が、安倍晋三政権時に首相主催だった「桜を見る会」。役員が招待を受けた「ジャパンライフ」は、マルチ商法の勧誘で招待状を見せていた。同じくマルチの「48(よつば)ホールディングス」の役員は、前夜祭で首相夫妻らと撮った写真を勧誘に利用し、会員を集めていた。学校法人「森友学園」に国有地が破格で売却された問題では、当時の理事長が首相夫人の昭恵氏と知り合いだった影響も取り沙汰された。
 今回の「公邸忘年会」で、岸田首相は翔太郎氏に厳重注意した。ただ、同じ首相秘書官でも今年2月に性的少数者(LGBTQ)への差別発言をした荒井勝喜まさよし氏は更迭されている。一概に比べられないが、翔太郎氏は1月の首相外遊同行時にも公用車での観光や首相の土産購入も問題になった。身内に甘くないか。

◆「首相は問題だと理解していないのでは」

 政治ジャーナリストの泉宏氏は「今回は弁解の余地なく『岸田家へのえこひいき』だ。ワイドショーなどで写真が繰り返し使われれば問題は尾を引く。岸田首相へのダメージは少なくなく、批判が長引けば内閣支持率にも響いてくる。解散や選挙をどうするかの戦略にも関わる問題だ」と指摘。「世襲を意識して翔太郎氏を秘書官にしたとは言え、続投させることが内閣にとって本当にいいことなのか。首相は必死に考えているはずだ」とみる。
 駒沢大の山崎望教授(政治理論)は「公私の峻別しゅんべつをできていないことを露呈したが、岸田首相の対応は非常にゆるい。息子だから処分が甘いと勘繰られるのは仕方なく、そもそも問題だと理解していないのではないか」と疑問を呈する。
 首相と周辺が公私をわきまえなくなる弊害を、山崎氏は「首相らのプライベートなつきあいが、いつしか政策決定を含めた公の部分を侵食するようになる。桜を見る会や森友学園問題にも通じる、近年の政権で目につく問題だ」と指摘。「権力者が世襲や縁故を重視し過ぎると、近しい人らの意見が政治の意思決定で過剰に取り入れられる。今回の件はそうした危うさもはらみ、見過ごせない」

◆デスクメモ

 アルバイトの職場で悪ふざけする動画をインターネットで公開し、炎上する「バイトテロ」。公邸で悪ふざけしていた翔太郎氏も、世襲が済むまでのバイト感覚だから、こんなことをしたのかもしれない。ただ、普通ならバイトテロの代償は解雇、損害賠償請求など非常に重いのだが。(歩)

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