「爆買い」中国人訪日客はなぜ戻ってこないのか 水際対策緩和、円安でお得なのに…

2023年6月17日 12時00分
多くの外国人観光客らでにぎわう浅草寺の雷門=16日、東京都台東区=東京都台東区で

多くの外国人観光客らでにぎわう浅草寺の雷門=16日、東京都台東区=東京都台東区で

 新型コロナウイルスの水際対策が緩和され、インバウンド(訪日客)が戻ってきている。急速な円安による「お得感」も相まって、米国やシンガポールなどからの観光客はコロナ禍前の水準を上回った。そんな中、コロナ禍前にはインバウンド需要を支える「爆買い」で話題となった中国人訪日客は大きく減ったままで、回復とはほど遠い状況にある。いったいなぜなのか。(岸本拓也)

◆米観光客などコロナ前超え

 16日昼すぎ、訪日客に人気の観光地である東京・浅草。都内の最高気温が30度を超える中、浅草寺の雷門をバックに記念撮影する外国人らでにぎわっていた。人力車の客引きをしていた男性(32)は「最近は、米国からの観光客が目立ちますね」としたたる汗をぬぐいながら話した。
 確かに欧米系の観光客が目立つ。とはいえ、耳を澄ますと中国語も飛び交っており、中国人観光客が全くいないというわけでもなさそうだ。ただ、浅草寺近くの土産物屋の女性店員は「中国の方も少しずつ戻っているが、コロナ禍前はもっといた。特に団体さんがほとんどいなくなった印象です」と以前との違いを口にした。
 数字をみれば変化は明らかだ。日本政府観光局が発表した今年1~4月の訪日客数によると、米国やシンガポール、ベトナムなどではすでにコロナ禍前の2019年の水準を上回っている。この点に限れば、昨年10月に新型コロナの水際対策が大幅緩和された結果、訪日客が戻ったといえる。

◆台湾情勢が原因? ツアー禁止継続の影響大きく

 しかし、中国人訪日客数は計約25万人と、19年1~4月(約289万人)と比べて91.3%の大幅減となっている。19年は年間で959万人が訪れ、訪日客全体の3割を占めていただけにその落差が際立つ。
 なぜ回復が遅れているのか。同観光局の担当者は「中国政府が日本行きの海外旅行商品の販売禁止措置や、帰国時の入国制限を継続している影響などがある」と説明する。
 中国政府は「ゼロコロナ政策」の一環で海外行きの団体ツアーの販売を禁止した。今年に入り、段階的に海外旅行の団体ツアーの再開を容認。その対象国は60カ国に上るが、台湾情勢を背景に関係がぎくしゃくしている日本や米国は、今も対象外となっている。
 日本を訪れる中国人の多くが団体ツアーを利用しているため、訪日観光客の本格回復につながっていないとみられる。
 中国人の海外旅行に対する意識の変化も背景にある。中国を拠点にする市場調査会社ドラゴン・トレイル・インターナショナルの4月調査では「今年は中国本土から離れるつもりがない」「今年は海外旅行に行くか分からない」という消極的な回答が半数以上に上った。主な理由が「安全性に対する不安」だった。
 日本は、コロナの5類移行に伴って水際対策を4月28日で終えた。訪日客のV字回復が期待されているが、団体ツアーに対する中国の規制が依然としてネックになっている。日中間に溝がある中、すんなりと解禁に向かうかは判然としない。
 ただ、観光業界に詳しいSOMPOインスティチュート・プラスの小池理人氏は「団体ツアーの制限がいつまでも続くとは考えにくい」との見方を示した上でこう見通す。「他国と比べて日本の水際対策は厳しく、中国人観光客から日本が敬遠されていた側面も大きい。その水際対策が撤廃されたことや、対元でも円安が進んで、中国人から見て日本での買い物が割安になっていることから、これから夏や冬の観光シーズンに向けて中国人訪日客は回復に向かっていくだろう」

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