<著者は語る>爽快感をモットーに 『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』棋士・杉本昌隆八段(54)

2023年7月2日 07時01分
 毎回毎回、藤井聡太七冠(20)の話を書く必要はない-。
 将棋界の大スター・藤井七冠の師匠が『週刊文春』でのエッセー連載を引き受けた条件だ。「毎週自分の話が載るのは藤井七冠も嫌だろうし、自分も弟子をエッセーの題材として見てしまう。お互いに良くない」と説明する。本書には藤井七冠とのエピソードだけでなく、多様な題材で二〇二一年から発表してきた百編が収められている。将棋界全体のニュース、自身と先輩棋士との思い出…。
 将棋の専門書やビジネス書を著したこともあるし、新聞にコラムも連載している。原稿の執筆はお手の物だが、週刊誌連載は初めて。家族の協力を得ながらネタを考えたり、締め切り前日にテレビを見ながら憂うつになったりすることもあるという。その一方、書き始めると、別の苦労が浮上する。「一回の分量は千五百字弱。すぐに埋まってしまい、コンパクトにまとめるのが難しい」と笑う。
 オチを付けること、爽快感のある内容を選ぶことを心掛けてきた。「専門書や新聞の読者と比べ、週刊誌はリラックスしたい人が多いと思う」。棋士の職業病でもあるぎっくり腰の苦しみをつづった回の締めくくりは、痛みが治まった喜びだ。「テーマは、人生の楽しさ。自分が楽しい気持ちになって書ける内容にすることを、意識している」
 もう一つのテーマは、将棋界に親しみを持ってもらうこと。将棋を知らない読者も想定し、専門用語は使わない。研究用のパソコンを買おうとショップ店員に相談した話や、対局に遅刻しないよう全力疾走する棋士のエピソードなど、興味のない人でも、共感できる話を盛り込んだ。「楽しんで読んでもらいながら、将棋のことを知ってもらいたい」と願う。
 文芸春秋・1760円 (大山弘)

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