ATM手数料アップが相次ぐ…関東の地銀15行にアンケート 新設の手数料も続々、その背景とは

2023年7月19日 06時00分
 個人が負担する金融機関のATMの手数料について、関東を地盤とする地方銀行で値上げが相次いでいることが本紙の調べで分かった。背景には、長引く日銀の低金利政策で地銀の収益力が悪化している現状がある。コロナ禍も収益悪化に追い打ちを掛け、多くの地銀が新たな手数料を導入した。金融緩和の「副作用」として、利用者の負担は増している。(大島宏一郎)

◆未利用口座、通帳発行にも手数料

 本紙は、関東1都6県に本店を構える地銀・第2地銀15行に書面でアンケートを実施。各種手数料の改定状況を尋ねたところ、2023年内にATMの振込手数料や利用手数料を「引き上げた」または「引き上げる」地銀は5行となり、昨年「引き上げた」4行と合わせると計9行に上った。手数料改定の対象が、先行して見直された硬貨両替などの窓口関連からATMへと広がった形だ。
 ATMの振込手数料を今年既に引き上げたのは、常陽(水戸市)と東日本(東京都)。足利(宇都宮市)も10月に振込手数料を値上げする。コンビニATMの利用手数料を上げる動きも目立ち、武蔵野(さいたま市)は5月に出入金時にかかる手数料を一部改定。栃木(宇都宮市)も10月に利用手数料を引き上げる。
 手数料を新設する動きも相次いだ。地銀15行のうち12行は20~22年の間に「未利用口座管理手数料」を新設。現金の預け入れや引き出しが「2年以上」など一定期間ない少額の口座に手数料を課すなどした。新規の口座開設者を対象に通帳を発行する際の手数料を求める動きも加速。横浜や群馬、千葉など複数の地銀が導入した。

◆大規模緩和策 「昔のように利ざやで稼げない」

 背景には、大規模緩和策に伴う経営環境の悪化がある。金融庁が各地銀の決算を基にまとめた資料によると、貸出金の利息収入などによる「資金利益」は10年間で減少。地銀の関係者からは「昔のように利ざや(貸し出しと預金の金利差)で稼げない」「経営を続けるには手数料の見直しが必要だ」との声が上がる。別の関係者は「電気代の高騰でATMの維持費用が負担になっている」と明かす。
 日本総研の大嶋秀雄氏は、マイナス金利政策などの影響で貸出金利が低下し「銀行は預金を貸し出しにあてても収益をあげにくい」と話す。こうした中で店舗窓口の人件費やATMの維持費などが負担になっており、手数料引き上げは「コストの一部を転嫁する」狙いがあるとしている。

◆「現金離れ」も背景に

 地銀がATMの各種手数料を上げる背景には、金融緩和による超低金利で個人や企業にお金を貸して稼ぐ力が細る中、ATMにかかるコストが経営の重荷になっている現状がある。コロナ下では、現金を使わない「キャッシュレス決済」が浸透し、銀行窓口やATMを利用する機会が減少。「現金離れ」が銀行手数料の引き上げや新設の背景にあると専門家はみる。
 全国銀行協会の統計によると、ATMなどの設置台数は約8万9000台(2022年)で、10年前の約11万1000台から減少が続いている。その理由の一つが銀行業界で進むコスト削減の流れで、ATMの維持には保守点検にかかる費用のほか、現金の補充時に伴う輸送費や警備費などの負担がある。費用は業界全体で年4800億円(経済産業省の推計)に上り、ある大手行幹部は「キャッシュレスの普及でATMは今後も減っていく」とみる。

◆「現金を取り扱うサービス」の縮小

 一方、ボストン・コンサルティング・グループの20年調査によると、ATMで出金することがコロナ下で「減った」と答えた人の割合が23%で、「増えた」の8%を上回った。ニッセイ基礎研究所の福本勇樹氏は「地銀は店舗やATMの数を削減してきたが、コロナ下で現金を使う人が減ったことで、ATMや預金の手数料を課す方向にかじを切りやすくなった」とみる。
 実際、ATM振込手数料を見直す動きはメガバンクでも出始めた。三菱UFJ銀行は10月から店舗窓口やATMでの振込手数料を66〜550円引き上げる。一方、インターネットバンキングでの振込手数料は据え置き、店頭やATMでの取引からネットへの移行を促す考えだ。業界では最大手行の取り組みが他の銀行に影響を与える可能性もあり、今後も「現金を取り扱うサービスの縮小」(福本氏)が進む恐れがある。

 日銀の大規模緩和 日銀の黒田東彦はるひこ前総裁が2013年4月に始めた政策。お金の貸し借り時に生じる金利を低く抑えることで景気を刺激する狙いがある。16年1月には追加の緩和策として「マイナス金利」の導入を決定。日銀が金融機関から預かったお金の一部に手数料を課す仕組みとした。同9月には長期金利を0%程度に誘導する「長短金利操作」を導入した。


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