戦後78年 記憶をつなぐ エンターテインメントを使った記憶の継承

2023年8月6日 07時29分
 今年も終戦の日の前後に、戦争の悲劇を記憶する番組が放送され、舞台公演が行われる。映画館も関連作品を上映する。戦後七十八年。当時を知る世代が減り、エンターテインメントを使った記憶の継承がますます重要になっている。

◆テレビ NHK・戦争孤児描くドラマ 「軍港の子~よこすかクリーニング1946~」

「軍港の子~よこすかクリーニング1946~」から=NHK提供

 NHKは総合でドラマ「軍港の子~よこすかクリーニング1946~」(10日午後10時)を放送する。戦後に米軍が駐留した横須賀でたくましく生きる戦争孤児を描いた。実話を下敷きに、日本各地で取材した戦争経験者の証言や資料をもとにしたフィクションで、田島彰洋ディレクター(34)は「若い人が戦争を考えるきっかけになれば」と語る。
 主人公は戦争で親を失い、親戚の営む横須賀のクリーニング店で働く少年。つらい仕打ちに耐えかねて家出し、孤児たちと暮らし始める…。企画の出発点は田島ディレクターが2年前、新型コロナ禍で自殺する子どもや、東京・歌舞伎町の一角に集まる若者「トー横キッズ」の報道に触れ、「若い人に生きる活力を与えられるドラマを作りたい」と思ったことという。同じ頃に脚本家の西田彩夏(32)から、亡くなった祖父が戦後に横須賀でクリーニングの仕事をしていたとの話を聞き、ドラマ化を考えた。
 「家も食べ物もなくても、孤児は自分たちで頑張った。そのパワフルさや『生きているだけですごい』ことが伝われば」と田島ディレクター。さらにこう付け加える。「戦争孤児は大人に助けてもらえず、いわば見捨てられた子どもたち。トー横キッズなど、今につながる」
 史実に近づけようと横須賀内外で当時を知る人を訪ねたが、「去年までは元気だったのに」と言われることも多かった。桑野智宏・制作統括(44)は「戦争が過去のものになりつつあると実感した」と危機感を語る。NHKスペシャルやETV特集などでも戦争や平和を取り上げる。

◇民放各局も工夫こらし

 日本テレビ系はNNNドキュメント’23(日曜深夜0時55分)で放送する。「伝承の期限 どうつなぐ?ヒロシマの記憶」(6日)は、広島の被爆体験を語り継ごうと志す若い世代と、彼らに希望を託す被爆者を取材した。「でくのぼう~戦争とPTSD~」(13日)は戦地で心を壊された元兵士の苦しみに向き合う。「あの日は消えない ヒロシマ被爆者は今」(20日)は広島から離れた地で原爆の記憶に苦しむ人を取り上げる。
 テレビ朝日系はテレメンタリー2023(土曜午前4時50分、静岡は火曜深夜1時50分)を使う。「国境に集結せよ モンゴルの草原に残るソ連軍の痕跡」(12日)は現地の調査を取材。「踏まれても 踏まれても~ゲンと子どもたちの半世紀~」(19日)は、漫画「はだしのゲン」が広島市内で使われている学校教材から削除された問題を追う。
 TBS系の特別番組「つなぐ、つながるSP 戦争と子どもたち 2023→1945」(12日午後3時半)は子どもの戦争参加に注目。ロシアのウクライナ侵攻や、太平洋戦争末期に沖縄にいた少年部隊などを取り上げる。14日の「news23」では、綾瀬はるかが日本で暮らすウクライナ避難民に戦争の現実を聞く。
 BSテレビ東京は「池上彰の戦争を考えるSP 2023」(15日午後5時58分)で核兵器の歴史をたどる。(石原真樹)

◆朗読劇 「ひめゆり」戦争のリアルを 新国立劇場の研修生ら 10~13日公演

朗読劇「ひめゆり」(2022年の公演から)=撮影・宮川舞子

 太平洋戦争末期に起きた「ひめゆり学徒隊」の悲劇を題材にした朗読劇「ひめゆり」が、東京・初台の新国立劇場小劇場で十日から上演される。次世代の舞台俳優を育成する同劇場演劇研修所の公演で、五回目の今年は二〇二一年入所の第十七期生らが舞台に立つ。出演者らは来場を呼びかけ、「生の舞台から出た言葉を通して何かを感じていただけたら」と願う。
 一九四五年三月の沖縄。戦争のうねりは女学校「ひめゆり学園」にも押し寄せ、生徒たちに従軍命令が下る。野戦病院で兵士たちの看護にあたるが…。
 「(学徒隊の一人だった)宮良(みやら)ルリさん(二〇二一年八月死去)が同時代に生きていらっしゃったことが原動力になった」と脚本を書いた瀬戸口郁(かおる)(59)。学徒隊員の手記などを読み込み、余計な装飾はいらない▽事実に忠実に▽すべての生と死に寄り添う-の三点を重視したという。
 ロシアのウクライナ侵攻は出口が見えず、戦争は過去のものではない。「人間は有史以来戦争をやめたことはないが、同時に英知を生み出してきた。英知は人を生かすために使うべきであって、殺傷するために用いるべきでない」と話す。ただ、現実は残酷で「戦争を問いかけ続けなければならない」として「板(舞台)の上で俳優が演じることで立ち上がる戦争のリアルがあると思う」と、生で表現する舞台に期待を込める。

左から飯田桃子、脚本の瀬戸口郁、佐々木優樹 =東京都渋谷区の新国立劇場で

 出演する研修生たちは沖縄の戦跡を訪れた。佐々木優樹(24)は「ガマ(洞窟)の暗さ、湿度、におい、音などを実感できたことが役を演じる際の支えになった。今を生きる私たちが、人類が経験したことをきちんとつないでいきたい」と話し、飯田桃子(21)は「戦争体験者の証言映像を見て、悲惨な状況なのに淡々とお話しされていることに衝撃を受けた。どこか冷静でないと話せないところがあるのでは」と振り返った。
 十三日まで。構成は道場禎一、構成・演出は西川信廣。新国立劇場ボックスオフィス=(電)03・5352・9999。 (山岸利行)

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