振る?振らない? 5月に発足「ルビ財団」 書けない漢字も変換できちゃう今だからこそ「振り仮名」を

2023年10月6日 12時00分
 社会にもっとルビをー。振り仮名の使用を出版社や自治体に働きかける「ルビ財団」を、オンライン証券大手マネックスグループの松本おおき代表執行役会長らが立ち上げた。出版物やウェブサイト、街の案内板の漢字のルビを増やし、子どもや外国人にも読みやすくしたいという。いま「ルビフルな社会」を目指す理由とは。(安藤恭子)

◆自動でルビをオン・オフできるソフトを開発

「ルビフル」と「ルビなし」をボタンで選択できるルビ財団のウェブサイト

 ルビ財団は松本さんの提唱で5月に発足。非営利の財団で社会還元を図る海外の寄付文化をモデルにしたといい、2年間をめどに1億円の私財を投じて活動する。公式サイトでボタンを押すと文脈に応じて自動で漢字にルビを付けたり消したりできるソフトを開発し、年内にも自治体などへ提供する計画だ。
 代表理事の伊藤豊さん(45)は「漢字がネックになって、小6の娘が読みたい本をあきらめてしまう。もったいないなあ、と思ってきた」と話す。中学受験を控える長女は過去問や模試に引用される新書や小説に興味を持ったが、1冊丸ごと読もうとして断念することが相次いだ。
 伊藤さん自身、シリーズ本を指す「叢書そうしょ」という漢字が読めなかった。努力を惜しまない意味の「やぶさかでない」など、普段書かない漢字もデジタル変換できる今、ルビがあれば受け取る側にやさしいと感じている。
 財団発足に、歓迎の声もあれば、「ルビを振る必要がない」と笑われることも。「長く見過ごされてきたルビに光を当てることで、漢字が苦手な人の理解を助け、出版界の発展にもつながるのでは」と話す。

◆ニーズ高まる「やさしい日本語」

 そもそもルビとは何か。清泉女子大の今野真二教授(日本語学)によると、活版印刷が主流となった明治時代、活字の大きさを宝石で言い表した英米の活字の愛称「ruby」からきている。江戸時代には既に、全ての漢字に振り仮名を付ける文化があり、不特定多数の読者を獲得する狙いがあったという。
 明治、大正と続いた「総ルビ」文化は戦後、終わりを迎えた。日常的に使う漢字を絞る意図をもって1946年に当用漢字表の内閣告示がなされ、一つの字に対する音訓が定められたためだ。本紙も原則として、当用漢字表を基に定められた現在の常用漢字表に沿って、ルビを振るかどうか判断している。

画像はイメージです。

 ただ、今も「総ルビ」に努めるケースはある。中部9県の小中学生向けに発行している新聞「中日こどもウイークリー」は漢字に原則全てルビを振っている。福沢英里編集長は「漢字を多く読んで言葉を知ってほしいが、多用すれば堅苦しく読みづらい。バランスを工夫している」と話す。
 在住外国人が増えている長野県安曇野市が7月から取り組む「やさしい日本語」もその一つ。公式サイトのボタンを押すことで、ルビを振ったり、難しい言葉を平易な表現に直したりできる機能を設けた。
 10月1日現在、外国籍市民は40カ国・地域の1494人。コロナ禍を経て技能実習生が増えている。財津達弥・市人権共生課長は「外国の方がごみ出しのルールや災害情報を知りたくても、どこに相談したらよいのか分からない。最初に情報を得る入り口として役立っている」と話す。

◆「場面に応じてルビは使い分け」

 これからのルビはどうあるべきか。今野さんは「子どもや外国人を支援するためのルビは当然必要だが、中学卒業時に読める想定の常用漢字にまで全部ルビを振るとなると、かえって合理的ではない。『読みづらい』とも言われるだろう」と指摘する。
 ただ常用漢字表は芸術分野には及ばないとして、「文学作品などでそれ以外の漢字を使い、ルビを振るのは全く問題ない。場面に応じてルビは使い分けるとよい」と話している。

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