五輪2030年招致は断念…それでも住民投票、ってなぜ? 北の大地の「民意」はどう示されるのか

2023年10月17日 12時00分
 札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)は2030年冬季五輪・パラリンピックの招致を断念すると明らかにした。ただ市民団体は動きを止めていない。大会招致の賛否を問う住民投票を求める署名活動を続けると表明した。あえて今、民意を問おうとする理由とは。(曽田晋太郎)

◆2034年招致に切り替えた矢先に

 30年の招致断念が表明されたのは11日。21年の東京五輪・パラリンピックを巡る汚職・談合事件の影響や経費増大への不安を背景に住民の理解が得られないとして、断念が決まった。

2030年の札幌五輪誘致の広告。右奥は北海道庁舎(2022年11月撮影、資料写真)

 「34年以降の大会開催可能性を探る立場に変わりはない」。札幌市の秋元克広市長は14日、記者団の取材にこう述べ、引き続き招致を目指す考えを示した。
 ただ直後の15日、国際オリンピック委員会(IOC)はインドで開いた総会で、30、34年の冬季大会開催地を同時決定することを決定。市の34年大会招致は極めて困難な状況となった。

◆札幌市は「いいかげんな方法でしか市民の意向を調べていない」

 五輪招致を巡って先が見通せなくなる一方、札幌では住民投票を求める動きが止まらずにいる。
 市民団体「札幌オリパラ招致の是非は市民が決める・住民投票を求める会」は今年9月、地方自治法に基づき、招致の賛否を問う住民投票条例制定に向けた署名活動を始めた。
 市は22年、無作為抽出の市民らに招致の是非を問う意向調査をしたものの、団体側は「市政に関する重要事項について住民の意思を確認するため、別に条例で定めるところにより、住民投票を実施できる」とする市自治基本条例の趣旨に沿い、広く市民の意見を聞くべきだと考えた。
 30年の招致断念が表明された2日後の13日、団体側は署名活動の継続を表明した。高橋大輔事務局長(62)は取材に「招致の反対運動ではない」と前置きしつつ「市はこれまで賛成に誘導するようないいかげんな方法でしか市民の意向を調べていない。市民自治の観点から市民に招致の賛否を問うて活動すべきだ」と語気を強める。
 11月までの2カ月間で条例制定の請求に必要な市の有権者数の50分の1(約3万4000人)以上の賛同を得ることを目標にする。高橋氏は「断念も市民の意見を聞かずに決めた。無責任な市の姿勢は到底許されない。市民のことは市民が決めるという市民自治の理念がないがしろにされている。市民自治を絵に描いた餅ではなく、現実のものにすべきだ」と訴える。「市政の重大事項を決める上で、市民の意向を聞かないおかしな前例ができては困る」

◆しがらみ…「秋元克広市長は主体的な判断ができないのだろう」

 当の秋元市長は依然として34年以降の招致に含みを持たせている。
 なかなか区切りを付けない姿勢について、札幌学院大の川原茂雄教授(教育学)は「秋元市長は(五輪を推進する)地元の政界や経済界に支えられて当選した。主体的な判断ができないのだろう」とみる。
 秋元市長は「しかるべき時期に民意の確認を行う。住民投票も一つの大きな手段」とも述べている。秋元氏が3選を果たした今春の市長選で招致反対を訴えて敗れた札幌市の元市民文化局長、高野馨氏(64)は「反対が上回れば招致できなくなるので、やる気はないだろう」と断じる。
 その上で「34年招致も困難な状況の中、38年を目指すのか、迅速な判断が求められる。もし目指すのであれば、住民投票で市民に信を問う必要がある」と指摘し、こう強調する。
 「これまで招致活動に莫大ばくだいな資金が投入されている。これ以上無駄な経費をかけないためにも、いったん招致を白紙撤回した方がいい。市民の税金を使い、招致に失敗した市長の責任は問われるべきだ」

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