<2023回顧 取材メモから>(下)台風13号で記録的豪雨の茂原 深刻な被害に住民苦悩

2023年12月31日 07時39分

台風13号の大雨が降った9月8日の茂原市役所周辺。豊田川(中央)から車が漬かるほどの水があふれた=市提供

 9月8日に接近した台風13号は、千葉県内に記録的な大雨をもたらした。観測史上最大の12時間に371・5ミリの豪雨が降った茂原市では、一宮川と支流が越水。市役所周辺の市中心部を含め、多くの住宅に浸水被害が出た。2019年10月の房総豪雨に続く度重なる深刻な被害に、「もう茂原を離れるしかないのか」と、住民から悲痛な声も聞かれた。
 年末が迫った12月中旬、建築課の担当者は被災した住宅の修理に関する住民からの相談や工事業者との連絡業務にあたっていた。市は災害救助法に基づき、家屋の修理費を国や県が最大約70万円を補助する「応急修理制度」への申請を受け付けている。
 被災から3カ月余りたったものの、申請された227件中、修理が完了したのは6割ほど。「住民が住みながらの住宅修理では、業者の施工可能な時間帯が限られてスケジュール調整が難航しやすい。業者によっては、受注が集中して対応できないケースもある。さまざまな要因で長期化している」と、同課担当者は説明する。
 今回の記録的豪雨では、大多喜町(328ミリ)、鴨川市(294・5ミリ)でも12時間雨量が過去最多を更新。浸水や損壊といった住宅被害は県内全域で計2339棟に上った。このうち7割余りの1693棟が、一宮川とその支流が氾濫した茂原市に集中した。
 「ガッシャーンと食器が割れ建物が揺れた。浸水してから水かさが増えるのはあっという間だった」。被災後に取材した一宮川の堤防近くの飲食店で働く40代の男性はこう振り返った。
 被害は市中心部にも及んだ。すぐ脇を流れる豊田川が氾濫した市役所周辺では、水位が腰の高さくらいまでになり、身動きがとれず救急隊に救助される人も見られた。
 一宮川は、19年10月の房総豪雨でも越水し、市内に3千棟以上の住家被害を引き起こした。対策に向け、県は堤防整備などの治水工事に着手。今回の水害はその施工中に起きたが、堤防近くで電器店を営む80代の女性は「治水効果があったのか、店内に流れ込んだ水位は前回の半分ほどだった」と振り返った。
 一方、この治水工事を巡っては不備の可能性も浮上する。県は大雨から約3週間後の9月29日、仮設堤防5カ所で必要な高さが確保されていなかったと発表。専門家による委員会を立ち上げ、現地調査や請負業者らへの聞き取りを進めている。これとは別に、茂原市も独自に調査を実施。一宮川にかかる明光橋近くの仮設堤防の不備により、最大で高さ64センチ分の水が市街地に流入したと推計した。
 12月中旬、この橋近くに住む女性(74)はこうつぶやいた。「これだけ水害が続いても、愛着あるこの場所は離れられない。すでに対策が進んでいるのは知っているが、より着実に、より広域的に進めて私たちの暮らしを守ってほしい」(加藤豊大)

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