非正規待遇格差5項目に「不合理」 扶養手当や休暇など 日本郵便訴訟で最高裁

2020年10月15日 22時37分
 日本郵便の契約社員が、正社員と同じ仕事なのに扶養手当や特別休暇がないのは不合理だと訴えた3件の待遇格差訴訟の上告審判決が15日、最高裁第1小法廷であった。山口厚裁判長は5項目の手当や休暇いずれについても、契約社員に認めないのは「不合理だ」と判断した。裁判官5人一致の意見。同様の手当や休暇のある全国の職場で、非正規労働者の待遇改善につながりそうだ。 (山田雄之)

◆ボーナス、退職金不支給は認められず

 旧労働契約法20条(現パートタイム・有期雇用労働法8条)は、非正規労働者と正社員の「不合理な格差」を禁じている。
 最高裁第3小法廷は13日、大学のアルバイト秘書へのボーナス(賞与)と駅売店の契約社員への退職金の不支給について「不合理とまでは言えない」と判断。いずれも個別の事例に限った判断だが、結論が分かれた。
 日本郵便の30~50代の契約社員ら12人は2014年、手当や休暇がないのは不合理だと東京、大阪、佐賀の3地裁に相次いで提訴。高裁段階で結論が割れていた。

◆項目ごとに検討

 最高裁第1小法廷は手当や休暇を項目ごとに検討。扶養手当の目的について「正社員の生活保障を図り、継続的な雇用を確保する」としながらも、契約の更新を繰り返すなど「継続的な勤務が見込まれる契約社員」については、職務内容に相応の違いがあることを考慮しても「格差は不合理」と認定した。
 年賀状シーズンに正社員に支給される年末年始勤務手当については、「多くの労働者が休日として過ごしている期間に働くこと自体への特別勤務手当」のため、勤務の継続性に関係なく契約社員に支給しないのは不合理と判断。祝日給についても同様に、不合理と認めた。
 夏期冬期休暇は「心身の回復を図るため」という趣旨に照らせば、契約社員に与えないのは不合理と指摘。病気休暇についても、継続的な勤務が見込まれる契約社員に与えないのは不合理と結論づけた。
 第1小法廷は夏期冬期休暇のみが争われた佐賀訴訟で日本郵便の上告を棄却。約6万円の賠償を命じた2審福岡高裁判決が確定した。東京高裁と大阪高裁の判決は破棄し、損害額を計算させるため差し戻した。
 日本郵便で働く約38万人のうち、約18万5000人が非正規労働者。日本郵便は「労使交渉を進め、必要な制度改正に適切に取り組む」とコメントした。
◇           ◇
 日本郵便の待遇格差を巡る15日の最高裁判決の要旨は次の通り。
 【扶養手当】
 郵便業務を担当する正社員への扶養手当は、生活保障や福利厚生を図り、扶養親族がいる者の生活設計を容易にすることを通じ、継続的雇用を確保することを目的に支給されている。
 この目的に照らせば、契約社員にも扶養親族がいて、継続的勤務が見込まれるのであれば、支給するのが妥当である。契約社員は原告のように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者もおり、継続的勤務が見込まれているといえる。
 【年末年始勤務手当】
 正社員が12月29日から翌年1月3日に勤務した時に支給され、最繁忙期で、多くの労働者が休日として過ごす期間に業務に従事したことへの対価という性質がある。業務内容や難易度にかかわらず、その期間に勤務したことが支給要件で、金額も勤務した時期と時間に応じて一律である。
 こうした手当の性質や支給要件、金額に照らせば、正社員に支給する一方で契約社員に支給しないのは不合理だ。
 【夏期・冬期休暇】
 正社員に夏期・冬期休暇が与えられているのは、労働から離れる機会を与えることで心身の回復を図るのが目的で、取得の可否や日数は勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない。
 契約社員も繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、繁閑に関わらない勤務が見込まれているため、夏期・冬期休暇を与えるのが妥当だ。
 【有給の病気休暇】
 私傷病によって勤務できなくなった正社員には、生活保障を図り、療養に専念させることを通じて継続的な雇用を確保する目的で、有給の病気休暇が与えられている。
 契約社員の中には有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者もおり、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。正社員との間で、病気休暇が有給か無給かの違いがあるのは不合理だ。
 【祝日給】
 正社員は祝日のほか、年始期間の勤務に祝日給が支給される。年始期間の祝日給は、慣行に沿って特別休暇が与えられるとされる時期に最繁忙期のため勤務したことへの代償と解される。
 最繁忙期に労働力を確保する観点から、契約社員に特別休暇がないことには理由があるとしても、年始期間の勤務の代償として祝日給に対応する祝日割増賃金を支給しないのは不合理である。
(共同)

関連キーワード


おすすめ情報

社会の新着

記事一覧