第5回 生徒指導提要を現場の目線で読む

第5回 生徒指導提要を現場の目線で読む - 東洋館出版社

漫画制作:ヤッシー(@84yame1000

第5章について

生徒指導提要の第5章は「暴力行為」なのですが、「暴力行為」とは実際のところどのような行為をさすのでしょうか?読者のみなさんの頭の中には具体的な「殴る、蹴る」等といったことが思い浮かんだのではないでしょうか。

実際は、文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」において、暴力行為を、「自校の児童生徒が故意に有形力(目に見える物理的な力)を加える行為」と定義しています(「生徒指導提要」p.141)。

また、「暴力行為」は、4つの形態に分類されています(図1)。

図1 「暴力行為」の種類と定義(「生徒指導提要」p.141を参考に筆者作成)

通常考えられているような「殴る、蹴る」といったことだけではなく、「器物損壊」も暴力行為に含まれることがわかります。

さて、第5章は

5.1 暴力行為に関する対応指針等
5.2 学校の組織体制と計画
5.3 暴力行為に関する生徒指導の重層的支援構造
5.4 関係機関等との連携体制

から成っています。

今回は「5.2 学校の組織体制と計画」と「5.3 暴力行為に関する生徒指導の重層的支援構造」から、私が重要だと感じたところを中心に書いていきます。

私の「現場目線」からみた重要ポイント

全校的な指導体制を

この章で私が重要ポイントとするところは、「みんなで取り組む」ということと、「全校的な指導体制を構築して取り組む」ということです。
生徒指導提要ではこれらのことについて、以下のように示しています。

児童生徒の起こす暴力行為の背景には、その児童生徒を取り巻く家庭、学校、社会環境などの様々な要因があります。したがって、それらの要因を多面的かつ客観的に理解した上で指導を行わなければなりません。また、むやみに指導を行うのではなく、児童生徒の自己指導能力を育て(→ 1.1.2 生徒指導の実践上の視点)、児童生徒が自らの行為を反省し、以後同様な行為を繰り返さないような視点に立った働きかけを行うことが重要です。このような発達支持的生徒指導を進めていくためには、一人一人の教職員に深い児童生徒理解力が求められるとともに(→ 1.3.1 児童生徒理解)、学校全体で育成を目指す児童生徒像や指導の考え方を共有し、関係機関との適切な連携の下、全校的な指導体制を構築することが必要です。

(「生徒指導提要」 p.143より引用 太字は筆者)

暴力行為の背景には様々な要因があり、担任・学年だけではそれらの要因を多目的かつ客観的に理解するには限界があるものと思われます。また、教職員も児童生徒と同じように今に至るまで様々な経験をしてきているため、それぞれ様々な指導観をもっているはずです。
したがって、児童生徒にある背景や要因を決めつけてしまうような、無理のある指導にならないためにも、学校全体で育成を目指す児童生徒像や指導の考え方を共有し、教職員全員が同じ目標に向かい、児童生徒の指導に当たるために関係機関との適切な連携の下、全校的な指導体制を構築することが必要なのだと考えられます。

一貫性をもった指導と、専門スタッフと連携した多面的な指導体制を

また、下記のように文書で明確化することで、それぞれの教師がもっている教育観・指導観のギャップを擦り合わせていくような組織的な体制をつくることも合わせて強調されていました。

暴力行為の改善を目指す指導や援助を効果的に行うには、暴力行為等を起こした児童生徒について、どのような教育効果を期待するかという観点から指導目標を描き、それを全教職員が共通に認識することが重要です。その際、学校の教育目標を踏まえつつ、校長を中心に教職員で活発な議論を行い、指導目標を設定していきます。指導目標が定まったら、アセスメントを実施し、指導方針、指導基準を明確にします。その際、個人により解釈が異なったり理解が曖昧になったりしないよう、しっかりと文書化して全教職員への周知を徹底します。

(「生徒指導提要」 p.143より引用 太字は筆者)

教職員によって指導の基準や指導方法が異なると、何がよいことで、どんなことに改善が必要であるのか児童生徒に困惑が生じます。全職員が一貫性をもった指導を行うことで、児童生徒がよい方向に向かうことができるはずです。
児童生徒の状況により、校内だけではなく家庭と連携して取り組むことも必要になります。暴力行為の原因(児童生徒の抱えている背景)に応じて、SC(スクールカウンセラー)やSSW(スクールソーシャルワーカー)、SSS(スクールサポートスタッフ)などの専門スタッフと連携した多面的な指導体制が求められているということでしょう。

「私の現場」で生かすとしたら

「5.3 暴力行為に関する生徒指導の重層的支援構造」をもとに「私の現場」で生かすとしたらどうするかを、以下のように考えてみました。

(1)第1層 発達支持的生徒指導より
暴力の背景には、自分の気持ちをうまく表現できずに衝動的な行動をとってしまうことなどの問題があると考えられる。そのため、自分の言いたいことを言葉で伝えられるようにすることを大事にしていくことが大切です。
児童生徒同士の日々の挨拶、暴力行為を起こしてしまう児童生徒への教職員からの日々の声かけ、そこから発展する対話。意図的に人と関わる場を設定する。該当の児童生徒にコミュニケーション力を身につけることができるよう、様々な種まきを実施していきます。

(2)第2層 課題未然防止教育より
暴力行為や刃物携帯行為を軽く考えて、「こんなことになるとは思わなかった」と後悔することのないよう、児童生徒、できることであれば保護者の方にも、警察の方に講和をしていただきます。
以前、情報モラル教育で警察の方に講話をしていただいたことがあります。実際の現場で起きていること、地域としてはどんな傾向があるのかをお話していただきましたが、実際に対応している人の具体的な話には現実味がありました。

(3)第3層  課題早期発見対応より
児童生徒の前兆行動を早期に発見し対応することが、暴力防止において重要です。
児童生徒について、発達面はもちろん、学習面、進路面、健康面、心理面、社会面(交友面)、家庭面などを多面的に見ていく必要がある。教員一人でアセスメントを行うには限界があります。SC やSSWなどと連携しチームで対応していきます。

(4)第4層 困難課題対応的生徒指導より
暴力行為が発生した場合、第一に暴力行為の被害を受けた児童生徒等の手当てと周囲の児童生徒等の安全確保を行います。状況によっては、救急や警察にすぐに通報します。
暴力行為に及んだ児童生徒が興奮していて、他の児童生徒等に更に危害を加えそうな場合には、他の児童生徒等を安全な場所に避難させます。対応について早急に管理職指示を仰ぎ、保健室での手当、暴力行為に及んだ児童生徒・被害を受けた児童生徒等・目撃した児童生徒等からの聴き取り、関係する保護者への連絡、暴力行為の現場の保全と記録を行います。

(1)~(3)は、常に留意して起きたい内容です。
また、(4)は、重大な暴力行為が発生した場合への自分への覚書として留意して起きたいと考えました。

生徒指導提要第5章を読み終えて

今回、このような機会をいただくことがなければ、絶対に生徒指導提要をこんなにも読み込むことはありませんでした。特に担当した暴力行為に関しては、自分自身が相当読み込みました。
暴力行為の未然防止、行動の早期発見、早期対応、暴力行為が発生した場合の対応については今まで以上に児童生徒に配慮をしながら行動に移すことができるようになります。

また、生徒指導提要を読み、チーム学校というのは、学校の中だけではなく、様々な関係機関等との連携体制をとることも必要だということを学ぶことができました。
様々な背景をもつ児童生徒が増えていく中で、どのように対応していくかを教職員だけでなく様々な機関と連携をとりながら多面的に見ていくことが重要であると感じました。
地域ごとに各機関とのつながり方は変わってくるはずですので、まずは一番身近な職場の先輩たちに話を聞き、学びを深めていきます。

グラレコ:山本晃佑(@koussssssst3

次回3/1(水)公開では、山本晃佑先生の第6章「少年非行」についてお伝えします。