心理学

対比効果とは?わざと売れにくい選択肢を生産する「捨て色」に見る応用例

最終更新日:2024.02.11編集部
対比効果とは?わざと売れにくい選択肢を生産する「捨て色」に見る応用例

対比効果とは?比較対象が変わると、その評価や印象に変化が生じる現象

対比効果とは?

対比効果とは、人がものごとを評価する際に、同じものでも比較対象が変わると、その評価や印象に変化が生じる現象のことです。たとえば同じ色でも、背景の色が違うと明るさや彩度が違って見えたり、同じ大きさのアイテムでも、周囲の比較物の大きさが変われば相対的な見た目の大きさが異なって映ります。また猛暑の炎天下で冷たい飲みものを飲むと、気温と飲みものの対比でのどごしの冷たさがよりいっそう際立って感じられることがあるでしょう。それも対比効果のひとつといえます。

対比効果は別名コントラスト効果(Contrast effect)と呼ばれており、以下の2つの観点から説明することができます。

知覚システムによる対比効果

人が目や耳や鼻などの感覚器官を通して取り込んだ刺激反応は、情報として脳へ伝えられる過程で反応が操作されます。たとえば視覚システムは網膜上の点の集まりをまとめたり比較することで、明るさや傾き、大きさといった情報が対比されるような形で処理されます。代表的な例として、明るさの異なる領域が隣接している場合に、明暗のコントラストが互いに強調されるという対比が生じます。黒い背景に白い文字を配したときに文字が際立って読みやすくなるのはこのためです。ドイツの詩人であり自然科学者でもあるヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテも1810年に、黒地に描かれたグレーの画像は白地に描かれた同じ画像よりも、ずっと明るく見えることを指摘しています。

認知バイアスによる対比効果 

心理学的な観点から見た対比効果は、認知バイアスのひとつといえます。認知バイアスとは、人が情報を処理する際に生じる偏った傾向や先入観のことです。認知バイアスは様々な要因から発動しますが、対比効果の場合は以下の2つが大きいとされています。 

アンカリング効果

アンカリング効果とは?

人は最初に提示された情報や数字(アンカー)に引きずられてしまう傾向をもっています。たとえば採用面接を行うとき、魅力的な応募者の次が普通の応募者だった場合、面接官は前の応募者の印象に引きずられて普通の応募者に対して魅力が少ない印象をもってしまう可能性があります。商品の値段の場合は、最初に見た値段が基準となって次に見る値段が安く感じられたり、その逆に作用したりします。

フレーミング効果

フレーミング効果とは?

人は論理的には同じ内容でも、提示される表現や心理的枠組み(フレーム)に影響されて判断を変える傾向をもっています。たとえば商品PRのキャッチコピーやビジュアルが満足感に方向づけられたポジティブな印象のポスターと、世の中に一石を投じるようなネガティブ方向の逆説的なトーンのポスターが並んでいたとき、多くの人は前者のほうに魅力を感じてポジティブフレームな一面だけで評価や意思決定をしてしまったりします。

これらは行動経済学者のダニエル・カーネマンと心理学者のエイモス・トヴァスキーによる理論で、経済における意思決定に共通する人の行動パターンを示したものです。人の認知や行動、動機づけは、先行刺激の影響を受けたり、文脈に依存してしまうという知見から、対比効果においても同様のメカニズムが作用することが示唆されています。

わざと売れにくい選択肢を含めることで顧客の意思決定を容易にする『捨て色』とは?

捨て色とは?

このように、比較する対象が変わることによってものごとへの評価も変わってしまう対比効果ですが、デザインやマーケティングに活かした事例も数多く存在します。中でも、アパレル業界では比較的日常的に取り入れられてきた『捨て色』にフォーカスしてみると、対比効果を応用するためのヒントが得られそうです。

『捨て色』とは、わざと売れにくい色の商品を生産して顧客の選択肢に含めることで、顧客の購買選択を促進するという手法です。たとえば新しいTシャツを販売するときには、人気の見込める色として「黒や白」「ネイビーやベージュ」のみを販売するのではなく、わざと「黄色や黄緑」などの人気の出にくいであろう色も店頭に並べます。それによって顧客は、選択肢の中から「自分にとって良い色」を選択し、購入しやすくなるのです。この場合、実は人気が出ないであろう色は店頭には並ぶものの、他の色と比べて生産数が抑えられている場合が少なくありません。つまり、顧客に「選ばれない選択肢」を提供するためにつくられる「捨てる色」として活用されているのです。

ユーザーに意思決定を迫るタイミングでは、比較対象となる選択肢や検討材料を提供することによってユーザー行動を促すといった施策が大切です。対比効果をうまく取り入れることで、サービスやプロダクトの改善につなげてみてはいかがでしょうか?

まとめ

人がものごとを評価する際に、比較対象が変わると評価や印象に変化が生じる現象、対比効果についてまとめました。対比効果は消費者行動や広告効果を理解するうえで重要な現象として、心理学やマーケティングの分野でも研究が蓄積されています。ふだんからユーザーや消費者目線で、私たちが対比効果の影響をどのように受けているのかを意識してみる目をもつことも大切です。

参考文献

  • Contrast effect『Wikipedia the free encyclopedia』(最終閲覧日2023年7月31日)

  • 服部雅史・小島治幸・北神慎司(2022). 有斐閣ストゥディア『基礎から学ぶ認知心理学 人間の認識の不思議』 有斐閣

  • 色彩論『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(最終閲覧日2023年7月31日)

  • ダニエル・カーネマン・村井章子(訳)(2012). 『ファスト&スロー  あなたの意思はどのように決まるか?(上)(下)』 早川書房

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