記憶のメカニズム

感情にからめた情報はどうして記憶されやすい?記憶のメカニズムをわかりやすく図解

最終更新日:2024.02.11編集部
感情にからめた情報はどうして記憶されやすい?記憶のメカニズムをわかりやすく図解

記憶とは?情報を保管してのちに思い出す機能

記憶とは、過去の経験や取り入れた情報を一度脳内の貯蔵庫に保管して、のちにそれを思い出す機能のことです。記憶はヒトに限らず生物がもつ基本的な働きで、広い意味でいえば私たちの日常生活の中で記憶に関わりのない活動はほとんどありません。たとえば日常生活を送るためのルーティーンや、自分が誰で何をしている人なのかという自己に対する認識など、過去の記憶に支えられた行動や認知は数多くあります。また記憶することで経験を対策として活かすことができるため、学習とも深いつながりをもっています。

生理学的にみれば記憶は大脳皮質が司る 「情報の保存処理機能」のひとつであり、私たちは記憶のおかげで大量の情報を保持したり整理することができています。ヒトがもつ記憶の機能を大まかに分けると、「認知記憶」と「運動記憶」の2つに分類されます。認知記憶とは、脳の記憶中枢である海馬を介してものごとを覚えるという記憶です。運動機能は身体の動かし方を覚える記憶で、海馬とは無関係な記憶です。ここでは認知記憶について説明します。

認知記憶と運動記憶
認知記憶 = 脳の記憶中枢である海馬を介してものごとを覚える記憶
運動記憶 = 海馬とは無関係な身体の動かし方を覚える記憶

記憶のメカニズムをわかりやすく図解

では私たちが何かを覚えるときに、脳の中ではどのようなことが起きているのでしょうか。そのメカニズムを下記のチャートで説明します。

記憶のメカニズム

■ 記憶のプロセス

  1. 何かを見たり聞いたり体験する

  2. 目や耳などの感覚器官から入ってきた外界からの「刺激」を脳が情報として受け取る

  3. 神経細胞をつなぐシナプスが脳の中で情報を運ぶ

  4. 情報が海馬のワーキングメモリに運ばれて短期記憶として1分ほどとどまる

  5. 情報を何度もくり返し復唱するリハーサルを行うことで中期記憶として1時間から最長で1か月間くらいとどまる

  6. 中期記憶の中で特に重要な記憶は、長期記憶として長期間定着する

新しく入ってきた情報のうち、一時的に必要で覚えておきたい情報については、海馬の中のワーキングメモリに暫定的に短期記憶として保存されます。短期記憶は実は1分ほどで消えてしまいますが、何度か復唱をすることで海馬に中期記憶として保管されます。そしてのちにそこから、長期的に定着する記憶と消えてしまう記憶とに分類されていくのです。

記憶には3つの段階がある「記銘・保持・想起」

取り込まれた情報が記憶として海馬に貯蔵されたら、そのあとはどうなっていくのでしょうか。そこには次のような流れがあります。

記憶の4段階

■ 記憶の3段階

  1. 記銘: 外部から刺激として取り込まれた情報は、脳に記憶として取り込める形に変換されたのちに海馬に記憶される

  2. 保持: 記憶が脳の中で保たれて貯蔵される

  3. 想起: 保持した記憶を必要に応じて思い出す

想起には3つの種類があります。

  • 経験したことを口頭や筆記によって覚えたものを思い出す 「再生」

  • 経験したことと同じことを経験した場合に、そのことを認識できる「再認」

  • 経験した要素をいくつか組み合わせて思い出す「再構成」

ちなみに情報科学的な観点から、記銘は符号化と呼ばれる場合もあります。想起は保持された情報の中から特定の記憶を探し出す作業であることから、検索とも呼ばれています。覚えた記憶がそのまま保持されているかどうかは、記憶が想起されて初めて確認することができます。記憶はさまざまな条件の影響を受けてしまうことがあり、消えてしまったりうまく思い出せない場合もあります。これを、「忘却」といいます。

忘却とは?
保持していた記憶が何らかの理由で想起できなくなる状態のこと。

感情にからめた情報は記憶されやすい?

感情にからめた情報は記憶されやすい

私たちが受け取った情報は、脳に取り込まれたあとに大脳皮質の後頭葉を経由してから海馬に貯蔵されることは前述しました。ところが、喜・怒・哀・楽などの感情や本能にまつわる情報は大脳皮質を経由することなく、直接海馬まで到達することが報告されています。海馬にダイレクトに届くことから、大脳皮質を経由する記憶よりも強烈な記憶として脳内に残ると示唆されているのです。つまり、人により強く記憶してもらうためには、感情や感動を伴う刺激をセットにすることが大きなポイントになるといえます。

たとえば、無味乾燥な仕事の資料の中に自分の好きなジャンルのエンタメ要素がからんでいた場合、仕事の資料という「情報」に、「好き」「うれしい」という感情がプラスされることによって、その仕事に対する記憶の定着度が高まる可能性があります。

実際、変化に乏しい日常的な仕事の記憶よりも、海外旅行中に五感をフル稼動して味わう非日常的体験のほうが、時間がたっても細部まで鮮明に思い出せるといった経験はないでしょうか。人に情報を届ける際には、情報に何らかの感情的な要素がプラスされることで、記憶に定着するパーセンテージが自然に高まる効果が期待できるのです。

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まとめ

人が何かを記憶するとき、脳の中ではどのようなプロセスで処理が行われているのかについてまとめました。記憶について知ることは人の認知機能にとって優しいインターフェースを理解したり、覚えてもらいやすい情報のサイズや長く記憶してもらうための効果的な工夫についてのヒントを得ることができます。

参考文献

  • 鹿取廣人 (編)・杉本敏夫 (編)・鳥居修晃 (編)・河内十郎 (編) (2020). 『心理学 第5版 補訂版』 東京大学出版

  • 記憶 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』 (最終閲覧日2022年10月15日)

  • 服部雅史・小島治幸・北神慎司 (2022). 有斐閣ストゥディア『基礎から学ぶ認知心理学 人間の認識の不思議』 有斐閣

  • 渋谷昌三 (2021). 『決定版 面白いほどよくわかる!心理学の本』 西東社

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