心理学

繰り返し見るだけで好意が高まる?広告やブランディングにも応用される単純接触効果

最終更新日:2024.02.11編集部
繰り返し見るだけで好意が高まる?広告やブランディングにも応用される単純接触効果

単純接触効果とは?

単純接触効果とは?

単純接触効果とは、1968年にアメリカの社会心理学者であるロバート・ザイアンスが提唱した、「同じものに対して単純に何度もくり返し接触を重ねることでその対象に対する好意的な態度が形成される現象」のことです。彼の名前にちなんだ「ザイアンス効果」という名称で目や耳にしたことがある方もいるかもしれません。単純接触効果は、これまで心理学の領域で多くの研究が蓄積されてきました。認知心理学を専門とする北九州市立大学の松田 憲教授によれば、その定義は以下のとおりです。

刺激提示の反復によって、刺激への好意的判断が高まる

単純接触効果が生じる背景

たとえば、初めての仕事先と打ち合わせで何度も顔を合わせるうちに、なんとなくその人に親しみを感じるようになったり、CMでくり返し接した商品や音楽をいつのまにか好きになっていたといった経験をもつ人は少なくないでしょう。人の好意を形成する過程において大きな影響を及ぼすこの現象は、近年では認知心理学や感性工学などの分野においても注目され、幅広く研究されています。

単純接触効果が生じる背景

では、なぜ、何度もくり返し接触をすることで、好意が高まっていくのでしょうか。前述の松田教授は論文の中で下記のように指摘しています。

単純接触効果についての考察

単純接触効果が生じる要因には複数の説があり、研究者たちの間で最も受け入れられているのは、「知覚的流暢性誤帰属」説である

  1. 刺激に接触し続けると、知覚情報の処理効率が上昇する

  2. 処理がスムーズになったことを脳が肯定的に捉えて、刺激への親近性が高まる

  3. 親近性の高まりを脳が好ましさとしてとらえ、単純接触効果が生じる

(松田 憲・楠見 孝 (2002). 「単純接触効果を支える表象形成過程の検討」より)

つまり単純接触効果は、脳が情報処理効率の上昇を肯定的にとらえることによって引き起こされるという説が有力なのです。しかし松田教授は 「くり返し刺激に接触した経験を意識することで、その刺激を好むようになるケースも多い」とも指摘しています。

たとえば、TikTokのタイムラインに何度も登場するPR動画から商品に対する好感が生まれて購買意欲につながったというように、接触回数の多さが引き起こす現象であると説明されたほうがふに落ちやすいかもしれません。いずれにしても、前述したように生じる要因に複数の説があるのが、単純接触効果の興味深いところです。

さて、この単純接触効果に対する応用研究として、インターネットのバナー広告を用いて行われた実験があるのでご紹介しましょう。

バナー広告への単純接触が商品の評価と購買に及ぼす効果

実験の目的

広告における商品名の反復呈示が、消費者の商品に関する知識や好感度、さらに購買行動に及ぼすプロセスを検討する

方法

79名の被験者に対して、バナー広告による10回の視覚刺激を反復して呈示させる

※実験に用いたバナー広告の商品カテゴリーは3つ(食品、日用品、医薬品)

結果

呈示された商品名は好まれやすく、その商品を買いたいと思わせることが示唆された

(松田 憲 (2005). 単純接触効果を支える概念形成過程より)

この実験で明らかにされたのは、単純接触効果から購買意欲へつながるプロセスでした。

  1. 被験者がバナー広告を見ることで商品名が典型化される

  2. 反復呈示によって商品名を再認する

  3. 好意度が上昇する

  4. 購買欲が高まる

上記のモデルが考察され、単純接触効果はインターネット広告における刺激にも拡張可能であるということが示唆されました。

バナー広告における、単純接触効果の注意点

実はこの実験、最初からきれいに結果が出たわけではありませんでした。当初は24名の大学生を用いて、バナー広告の呈示は3、5回で実施されました。ところがその条件では、商品名に対する好意度が上昇する場合と上昇しない場合が出てきたのです。それらの原因として、被験者の視線がうまくバナーに集中できていない可能性などが考えられました。

そこで、被験者に見てもらうホームページの背景やバナー広告のサイズ感をより見やすいものに改善したり、被験者が画面上で注視するべき場所も統制しました。さらに被験者の母数を79名に増やして、バナーの呈示回数も10回に増加したところ、商品名の再認から購買意欲までつながる結果が示されたとのことでした。仮説に従って検証が行われたこの実験ですが、松田教授はこんな指摘もしています。

「接触頻度と典型性が高ければ高いほど、その刺激が好きになるかといえば、必ずしもそうではありません。最適水準を超えると逆に好意度は低下していきます。『過ぎたるはなお及ばざるがごとし』ということでしょう」と、松田教授はしめくくっています。理論を転用する際にはこのことを頭に置いておくとよいでしょう。

単純接触効果を用いた事例

この単純接触効果はUXデザインにおいてもかなり重要な知識です。たとえば、特定のキャラクターをサイトだけでなく、テレビCMや広告などでもくり返し登場させて使うことで単純接触効果が生じて、ユーザーからの好感度が高まることが期待できます。同じキャラクターを用いることでビジュアルや世界観にも統一感が生まれて、ブランドイメージの形成を促進してくれることが推測されます。

ブランドをつくる立場のデザイナーとしては、消費者がブランドを「同一のもの」と認識できるようにブランドイメージを一貫して伝えることが重要となります。一貫性をもってブランドイメージを消費者に伝えることが、消費者に「ブランドを認知してもらう」ために重要となることは広く理解されているでしょう。しかし、消費者と「接触すること」自体に好感度を高める効果があることはあまり知られていないかもしれません。この単純接触効果による影響をふまえると、ブランドの好感度を上げるためには、まずタッチポイントを増やすことから始めることもひとつの手段となり得るのではないでしょうか?

まとめ

現代を生きる私たちはどこにいても、常に溢れるような大量の情報に囲まれています。単純接触効果を意識することは、情報過多社会において、届けたい相手と的確なコミュニケーションをとるために欠かせない大切な備えといえるでしょう。

参考文献

  • 日本心理学会HP. (最終閲覧日2022年9月16日)

  • 松田 憲・楠見 孝 (2002). 単純接触効果を支える表象形成過程の検討: 概念の典型性が好意度評定と再認定判断に及ぼす効果 日本心理学会第66回大会発表論集, 637.

  • 松田 憲 (2005). 単純接触効果を支える概念形成過程 (Abstract_要旨) 京都大学学術情報リポジトリ, 183-186

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