少し知っておくと役に立つかもしれない、こころに関するおはなしです。目に見えないものであるけれど、わたしたちの心は日々ゆらぎ、動いています。そんなときに思い出してもらえたら、ちょっと楽になるかもしれない内容をお届けします。

水に流すのも、良し悪し?

2018/12/07

「外から帰ったら、うがいと手洗いをしなさい」と、小さな頃よく母から言われました。当時はそれが面倒でしたが、確かに流水で15秒間手洗いするだけでもウイルスは手洗い前の1%に減ると言われています。さらに石鹸等を用いて適切な方法で手洗いすることは、ノロウイルスなどの感染症予防にも重要なようです。

しかも、手洗いは物理的清潔だけではなく、私たちのこころにもさまざまな影響を及ぼすことが最近の研究で明らかになってきました。例えば、難しい選択を行った後に手を洗うことで、選択結果に対する不安や葛藤が軽減されることや、失敗への挫折感に囚われず目標修正がしやすくなることが報告されています。

 

手洗いによって、汚れやウイルスだけではなく、記憶や感情といったこころの残留物も取り除かれるということなのかもしれません。

 

さらに驚くべきことに、実際に手洗いをしなくても、人が手洗いしているのを見たり、手洗いシーンを想像するだけでも同様の効果が見られることも分かってきました。そう考えると、憧れの存在に握手をしてもらった人がよく「もう手を洗いたくない!」などと言うのは、逆に「喜びの記憶に浸っていたい!」という気持ちの表れのようにも思われます。

 

しかし、興味深いことに、オスナブリュック大学のカスパー氏が行った実験では、作業終了後に手洗いをしたグループは手洗いをしなかったグループよりも作業結果に対して楽観的であったものの、作業再開後の成績は手洗いをしなかったグループの方が良好でした。

 

つまり、手洗いは、挫折感などのネガティブな感情を軽減できるものの、「次はもっと頑張ろう」というやる気も流し去っている可能性を示唆していました。

 

人は挫折感を覚えるからこそ、奮起できるという側面もあります。手洗いも、効果的なタイミングでほどほどが良いかもしれませんね。

 

 

(臨床心理士 坂田真穂)

 

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