皆さんは「大学院」と聞いてどのようなイメージを持ちますか? 「理系の学生が多く行くところ」「研究が大変でつらそう」などの印象を持つ方も多いのではないでしょうか。そもそも、大学院に行く意味やその後の将来像を描きにくいという学部生もいるかもしれません。今回は、現役の大学院生3名にインタビュー。ベールに包まれた大学院での研究や生活、進学のきっかけ、将来の展望について話を聞きました。さらに、記事の最後には、大学院に関する質問集を掲載。大学院進学を検討する際に、ぜひ役立ててください。
▼政治学研究科:倉田 大輔(政治経済学部出身)
▼環境・エネルギー研究科:喜多見 まどか(他大学出身)
▼文学研究科:三林 優樹(教育学部出身)
▼大学院に関するよくある質問
非常に刺激的な大学院生活を満喫中!
大学院政治学研究科 修士課程 1年 倉田 大輔(くらた・だいすけ)
――いつ頃から大学院進学を意識しましたか?
中学1年生で受けた歴史の授業がきっかけです。その授業は、大学の講義のようなスタイルで実施されていました。授業内のレポート課題で韓国併合をテーマにして以来、この歴史的事象に伴う「不正義」に関心を持ったんです。高校進学後は、戦後の日本社会での在日朝鮮人・韓国人問題を研究。学部では、文献を読んで学びを深めながら、自ら「問い」を発見すること、その問いにどう応答していくかを考える行為に魅力を感じ、大学院で研究することが一つの選択肢となっていきました。
――大学院入学試験に向け、どのような対策をしましたか?
私は推薦入試で受験しました。その中で求められた研究計画書の作成では、学部生のときからお世話になっていた谷澤正嗣先生(政治経済学術院准教授)に相談しました。執筆にあたり意識したのは、テーマと長く付き合っていきたいと思えるか、問題の設定レベルが適切か、独自の観点を持つかといった点です。提出後の口述試験では、進学後の研究内容について重点的に質問されるため、分かりやすく研究計画を伝えられるよう対策しました。
――大学院での学生生活について教えてください。
週に7科目を履修しながら、政治経済学部の演習科目のティーチング・アシスタント(TA)も担当しています。それ以外の時間は、政治学研究科に所属する学生用の自習室や戸山図書館、大学周辺の喫茶店などで、文献を読んだり、勉強した内容をまとめたりしています。そうやって一人で文献に向き合うこともあれば、早めに帰宅して友人3〜4人とオンライン読書会を開催し、学びを深めることもあります。
――どのようなことを研究テーマとしていますか?
現代政治理論に興味を持っています。自由、平等、正義といった政治的概念を分析しつつ、社会に具体的な構想を提示・正当化することが、現代政治理論の営みの一つとされます。ただ、私たちが生きるのは、多様な人々がそれぞれの信念を持って生活する「多元性」のある社会であり、互いを理解するのは難しい。この「分かり合えなさ」を前提に、どのような正義の構想であれば、人々が受け入れられるのかを考えることがメインテーマです。
写真左:事前にテクストを読み込み、ゼミでは活発な意見交換が行われるという
写真右:自宅の勉強机。英語の文献も多い
――将来の目標について教えてください。
研究テーマでもある「多元性」の現実を尊重しつつ、「正義」を追求する、ないしは「不正義」の排除に取り組むのが大きな目標です。とは言ってもあまりに抽象的なため、目標をよりよく達成するための手段に悩んでいます。在学中にしっかり時間をかけて、さまざまなアプローチの方法を見極めていくつもりです。
――最後に、大学院を目指す学部生に向けてメッセージをお願いします。
大学院生活は、非常に刺激的で面白いということを学部生の皆さんに伝えたいです。さまざまなバックグラウンドを持つ同期や実績ある先輩方との議論を通じ、自分の実力を相対的に把握し、それを原動力としてさらに勉強しようと思える魅力的な場所です。また、学部生のときは、関心の赴くままに何でもやってみることが、案外研究にもつながります。私自身も学部在籍中、鵬志会(公認サークル)に所属し、多様な立場の人と場を共有する中で、考え方に大きな影響を受けました。ぜひさまざまなことに挑戦してみてください!
大学院政治学研究科Webサイト:https://www.waseda.jp/fpse/gsps/
一度きりの人生、後悔しないために大学院へ
大学院環境・エネルギー研究科 修士課程 1年 喜多見 まどか(きたみ・まどか)
――いつ頃から大学院進学を意識しましたか?
大学3年生のときの台湾留学がきっかけでした。大学卒業後は就職して働くのが一般的とされる日本に対し、海外では卒業してからも、自分の好きな道に進む人が多いことに気付いたのです。私も留学前から就職活動をしていたのですが、あらためて本当にやりたいことを見つめ直した結果、以前から興味を持っていた環境問題について、大学院で研究したいと思うようになりました。この決断を後押ししてくれた家族には感謝しかありません。
写真左:留学先の台湾では、10カ月間インターナショナルハウスで過ごした(左から3人目が喜多見さん)
写真右:地元・福島にある鶴ヶ城(会津若松城)を背景に1枚。地元に自然が多くあったことも、環境問題に興味を持った理由の一つ
――喜多見さんは他大学の出身ということですが、早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科を選んだ決め手は何でしたか?
学部に在籍していたころは、国際系の学部で環境問題を勉強していて、大学院でも引き続き同じテーマを扱いたいと思っていました。中でも早稲田大学の環境・エネルギー研究科を選んだのは、研究科長の友成真一先生(理工学術院教授)の著書を読んで、その内容に感銘を受けたから。「人間は『タコツボ』に入って物事を考えがちだが、その外のことが見えていないと、物事がうまく機能しないものだ」という点が印象的でした。そんな先生の下で学びたいと思ったのです。
――大学院での学生生活について教えてください。
普段は在宅で研究しながら、本庄キャンパスや早稲田キャンパスで授業を受講しています。授業では、同研究科内の他の研究室の学生と共に、本庄市の特性や魅力を分析しながら、環境エネルギー政策を学んでいます。また、所属する友成研究室は、学生の3割が理系学部の出身。文系学部出身の自分とは異なる視点を持つメンバーの意見に、日々刺激を受けています。一方で、授業と両立して週3日のアルバイトもこなしています。
――どのようなことを研究テーマとしていますか?
製造過程において環境や人に配慮した化粧品、「エシカルコスメ」に関連する研究をしています。エシカルコスメの導入が進む韓国と、なかなか導入が進まない日本を取り上げ、化粧品の原材料に対する人々の意識や企業文化の違いを比較・考察したいと考えています。
写真左:緑が豊かな本庄キャンパス 写真右:授業の一環で対談した本庄市の吉田信解市長と
――将来の目標について教えてください。
友成先生に教わった「環境を保全しながら文明を発展させていくことには、難しさ・ジレンマがある」という視点を大切にしながら、今後も研究を進めていきたいと思っています。修士課程修了後は、日本でエシカルコスメを広めることを最終目標に、民間と公務員の双方を視野に入れて、環境問題に携わる仕事に就きたいです。
――最後に、大学院を目指す学部生に向けてメッセージをお願いします。
大学院への進学は理系学生がすること、というイメージを持つ人が多いかもしれません。私自身、「文系の学生なのに、大学院に進学するの?」と言われたこともありました。しかし、人生は一度きり。進路選択で後悔しないためにも、他人にどう思われるかは気にせず、自分を信じて希望する道を進んでほしいと思います。
大学院環境・エネルギー研究科Webサイト:https://www.waseda.jp/fsci/gweee/
知的な議論を交わせる大学院での豊かな日々
大学院文学研究科 修士課程 2年 三林 優樹(さんばやし・ゆうき)
――いつ頃から大学院進学を意識しましたか?
教育学部に入学した当初は、国語の教員として就職するか、研究者の道に進むか悩んでいました。教育学の観点から夏目漱石の文学を勉強する中で、より専門的に文学を学びたいと思い始めたのが3年生の夏ごろ。それから学部を卒業し、1年間の準備期間を経て文学研究科に進学しました。
――大学院入学試験に向け、どのような対策をしましたか?
受験した一般入試は、1次試験が書類審査と筆記試験でした。書類審査では、研究テーマを熟考した上で作成した研究計画書を提出。筆記試験の一般外国語は学部時代からコツコツと勉強を続け、専門科目は試験の3カ月前から過去問(※)を参考に対策を始めました。2次試験の口述試験では、研究計画を先生方にしっかりと説明できるよう、ひたすら内容を煮詰めることを意識しました。
(※)Webサイトで過年度の入試問題を公開している研究科も多い。
――進学前と後で感じた学生生活のギャップはありますか?
進学前は、授業についていけず、単位を落としてしまわないか不安でした。しかし、実際は学生が研究に専念できるよう積極的に応援してくれる先生が多く、授業の単位取得が厳しいと感じることはあまりありません。その点は意外でしたね。
――大学院での学生生活について教えてください。
週2科目の必修科目以外は、基本的に朝9時から夜8時頃まで大学図書館で研究に専念しています。授業では、学部生のころに比べてより活発な議論が交わされていると感じています。一緒に授業を受ける大学院生には個性的な人が多く、それぞれの意見を聞くのがとても興味深いです。専門的な内容に踏み込み、知的な議論をするのは本当に楽しいことですし、大学院の一番の魅力だと思います。
写真左:普段は中央図書館の2階で勉強することが多い
写真右:研究に煮詰まると、大学周辺をよく散歩をするそう。今春、神田川沿いを歩いたときの1枚
――どのようなことを研究テーマとしていますか?
現在は、「妊娠小説」を男性の視点から読み解く研究をしています。妊娠小説とは、日本文学において描かれてきた「女性の望まない妊娠」を概念化したジャンルのこと。この分野に着目した背景には、大学院に進学する2020年までの1年間、東京大学入学式での上野千鶴子氏の祝辞などを背景に、ジェンダーに関する世間の意識が高まった時期だったことがあります。そのような時期に、自分を取り巻く環境での性に関する偏見が目につくようになり、ジェンダー問題を本気で捉え直したいと思ったのです。
――将来の目標について教えてください。
今後は博士課程に進み、今着目している戦後だけでなく、日本文学全体に視野を広げ、妊娠小説に関する博士論文を書き上げたいです。その後は、国語教員として就職する傍ら、文学研究も続けていきたいと思っています。
――最後に、大学院を目指す学部生に向けてメッセージをお願いします。
私は、研究には向き不向きは無いと考えています。大学院進学に不安を抱いている方も多いと思いますが、少しでも進学に興味があるのなら、まずは友人や先生に相談してみてはいかがでしょうか。
大学院文学研究科Webサイト:https://www.waseda.jp/flas/glas/
取材・文=萩原あとり
大学院に関するよくある質問
Q. 大学院に進学した際の学費が気になります。
A. 学費の情報は、入学センターWebサイトで一括して確認できます。なお、早稲田大学では、大学院生向けの奨学金を用意しています。早稲田大学独自の奨学金については、奨学課Webサイトを確認してください。また、研究科ごとに設けている奨学金制度も多くあります。さらに、博士後期課程在学生を対象とした奨学金も充実しています。
Q. 修士課程に進むと、社会に出るのが2年遅くなってしまいますよね。
A. 研究科によっては修士課程1年制を設けている場合があります。さらに、学部在籍中から先取り履修をすることで、2年分の学びを1年に凝縮して身に付ける「学部・修士5年一貫修了制度」を設けている研究科もあります。
Q. 学部卒に比べて、就職が難しくなるイメージがあるのですが。
A. 大学院では、それぞれの研究科で自身の専門性を磨けることはもちろん、自ら課題を設定し、仮説を立て、検証・分析し、結果を論文にまとめたり、プレゼンをしたりするという、社会に出ても役立つ「課題解決力」を身に付けることができます。自己理解と仕事理解を深めて就職活動に臨むのは学部生と同じですが、大学院生として課題解決力を期待されるようになります。各研究科修了生の就職率・就職先はキャリアセンターWebサイトや各研究科Webサイトで公開しています。
Q. 学部卒業後、一度就職してから大学院に入り直すことを検討しています。
A. 社会人経験を積んでから、早稲田大学大学院で学び直す方も多くいます。また、働きながら学ぶ学生のために、夜間での授業を開講している研究科もあります。自身の目的に合った研究科を簡単に探せる専用Webサイトも活用してみましょう。
大学院に関する詳細な情報は、各研究科のWebサイトなどで発信しています。また、入学センターWebサイトでは入試情報を始め、大学院の幅広い情報を提供しています。興味のある人はぜひ確認してみましょう。
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