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新聞には読者から寄せられた投書を掲載するコーナーがある。読売新聞朝刊の投書欄「気流」の場合、東京本社だけで毎月2000通前後の投書が届く。内容は新聞に載ったニュースに対する意見から、身近に起きた出来事の報告や感想までさまざま。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)による発信が一般的になっても、新聞投書欄が世相を映す鏡であることに変わりはない。古くて新しい新聞投書の世界を紹介する。
最近は読み応えある投書が増加
読売新聞の投書欄は、創刊した1874年(明治7年)に「投書(よせぶみ)」という名前で始まった。その後、「葉がき集」「斬馬剣(ざんばけん)」などと名前を変え、1946年に現在の「気流」という名前になった。
現在の「気流」欄には投書以外に、読者から寄せられた川柳の入選作を紹介する「よみうり時事川柳」も毎回掲載される。記者が投稿者に改めて取材して、投稿内容を掘り下げる「投稿者を訪ねて」も掲載される。読者と新聞社をつなぐページとして長年、親しまれてきた。
世論調査部の担当者が手分けして、届いた投書にはすべて目を通す。1日6本程度を選んで掲載している。筆者が投書担当のデスクになったのは2022年8月から。2012年9月から1年4か月間、気流を担当したので、今回は10年ぶり2回目。前回に比べ、胸に迫り、読み応えのある投書が増えたような気がしている。
カタカナ語:捉え方さまざま
新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」に移行することに伴い、東京都の広報紙「広報東京都」5月号は都の方針を「サステナブル・リカバリー」と表現した。 この表現を巡り、5月17日の気流欄には、東京都杉並区の70代男性の投書が載った。
「何を意味するのかも、何がどうなるのかも分かりません」「公の方針は理解しやすい日本語で伝えてほしい」。カタカナ語をむやみに使う行政に疑問を呈した意見だった。なるほど、コロナ禍からの都の復興策に「サステナブル」を冠する意味をすぐに理解できる人は、そう多くないだろう。健全な批判精神が健在であることを示す投書だと感じた。
しかし、カタカナ語を違う観点から捉えた読者もいる。冒頭の投書に先立つ3月16日に掲載された投書で、北海道北広島市の90代男性は「新しいカタカナ語に出会うたびに辞書や事典などで意味を調べ、ノートに記すようになった。3年間でノート1冊が埋まった」と記した。「カタカナ語を通して成長していきたい」という姿勢に感心した。
カタカナ語に関する二つの投書を併せて読むと、同じカタカナ語でも、いろいろな捉え方があることがわかる。どちらの投書にも、実体験を通じた思いがつづられており、それぞれに重みがある。
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