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人間を数値化、序列化するのは「客観的」か……8刷を数える話題の新書

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『客観性の落とし穴』村上靖彦著(ちくまプリマー新書) 880円 8刷、6万2000部

 知り合いの知り合いに、こんな人がいる。自分の友人全てに片っ端から「点数」をつけている、都内のラブホテルの店長だ。「あいつは何点で、あいつは何点」と言った具合に、百点満点で勝手に採点する。彼にとって価値のある人物かどうかを定量化しているようなのだ。「あいつは最近多く遊んでいるから七〇点」とか「あいつは金無いから(顔悪いから)二〇点」とか。点数の高低に応じて人と接する態度を変えるのか? 彼は何らかの序列関係の中でしか、他人とうまく関係を結べないのだ。僕は彼とは友達にはならないけれど、しかしもしかしたら彼もまた、現代社会の被害者なのかもしれないと思った。

『日本の寄付を科学する』坂本治也編著

 著者は、客観性が生まれた背景や、人間が数値化・序列化されていく社会の様相を描く。本書はこう言っている。十九世紀以降、自然科学が発展する中で、客観性という言葉が一般化していった。客観性とは〈人の目というあいまいなものに「邪魔されずに見る」ことを指す〉。

 そして客観性への信仰が あつ くなればなるほど、人々の「数値」への執着もまた強くなっていった。例えば統計を活用して、未来は予測される。偏差値を参考に学生は進路を決める。やがて先鋭化していき、人間はモノ化され、我々が本来持っている「生々しさ」が隅に追いやられて、世の中が息苦しくなってきてしまった。冒頭に挙げた知り合いの知り合いも、おそらく身の回りの全てを数値化するこの風潮を内面化していた。不幸にも、そんな風にしてしか世界と 対峙たいじ できないのだ。

 タイトルから想像した論とは違った内容だったが、アウトリーチなど熱心に続ける著者の活動を裏付ける、その思想が垣間見られた。(作家 鴻池留衣)

  村上靖彦 (むらかみ・やすひこ) 1970年生まれ。大阪大大学院人間科学研究科教授・感染症総合教育研究拠点CiDER兼任教員。専門は現象学的な質的研究。著書に『ケアとは何か』(中公新書)など。

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