[現代×文芸 名著60]言葉を楽しむ<20>「散文」獲得へ文学者奮闘…『日本文学盛衰史』 高橋源一郎著
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いま一般に使われている日本語の書き言葉の姿は明治期、才と勇気ある文学者たちが試行錯誤の末、勝ち取ったものといえる。高橋源一郎の小説『日本文学盛衰史』は「近代日本文学」の
初出の「群像」連載は20世紀の終わり、単行本の刊行は21世紀の幕が開けた年。いま読むと「ルーズソックス」「ちょべりば!」などの言葉が古めかしい。だが、それは当時新鮮だったことの裏返しだ。時代の変化など、著者は最初から織り込み済みなのだ。
小説が「近代芸術として離陸することに成功」したのは、二葉亭四迷が「言文一致」による「散文」を作り出したから。しかし小説『浮雲』を書き翻訳にも挑んだ四迷は、自分の仕事に懐疑的になり筆を折る。国木田独歩は「二葉亭を通して手に入れた」散文を使って『武蔵野』を書く。その中でひらめきを得て「人と都市に入ってゆく」。詩集『若菜集』で一世を
石川啄木が「伝言ダイヤル」にはまったり、自然主義に基づき「露骨なる描写」を展開した小説『
小説が批評となる場を、実現する作品だ。硬軟自在。過去の人々は確かに言葉の中に生きているのだ。「文学史」の隙間を埋める想像の激しさが「近代日本文学」の来歴を照らし出す。(蜂飼耳・詩人)