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今夏も海や川などで水難事故が起きている。警察庁が6月に発表した2016年の水難事故統計では発生件数が1505件、死者・行方不明者は816人で、いずれも前年を上回っていた。場所別では海が1位で425人、2位は河川の250人で、子どもの死者・行方不明者に限れば河川が20人と一番多かった。危険がどんなところに潜み、注意すべき点は何か、水難学会の斎藤秀俊会長に聞いた。(聞き手・読売新聞メディア局編集部 河合良昭)
静かに一瞬で沈む
溺れるというと、テレビドラマなどで「助けてー」と叫びながら、手をばたばたとさせ、浮き沈みを繰り返し、最後に力尽きて沈む――というように描かれることが多いと思います。しかし、実際には静かに一瞬で沈むことが多いのです。
ここに人が溺れる瞬間を偶然捉えた映像があります。深さ4メートルのプールを使い、水の中で服を着たまま、背中を下にして体の力を抜いて浮かぶ「背浮き」を習う講習会の映像です。参加者が順番に背中からプールに入り、「背浮き」を成功させていきますが、その中の1人が溺れてしまいます。入水後すぐに腰を引いてしまい、下半身が沈んでいきます。そして両手を上げた瞬間にすぅっと一瞬で沈みます。本当にアッという間です。浮き上がることができず、そばで待機していた人に水中から引き上げられました。これが海や川で、そばに救助する人がいなければ、危険な状態になっていたと思います。水中では決して“立った”姿勢にならず、水面に仰向けに寝転がるように「背浮き」を心がけてください。
溺れるメカニズム
なぜ、人は一瞬で沈んでしまうのでしょうか。そのメカニズムを説明します。
人が水中で頭を上にした“立った”状態でいると、浮力は2パーセントで、何もしなければ頭の上がわずかに出る程度です。手を上げると頭は完全に沈み、手先が出るだけです。もがいて顔を出して呼吸することもできますが、仮に「助けてー」などと叫ぶと肺の中の空気が外に出てしまい、浮力を失います。体が浮力を失った状態では、手をかくなどして自分の力だけで浮上するためには強い力が必要で、体力のない人は非常に危険な状態になります。深みにはまったと気がついたとき、一番やっていけないのは両手を高く上げて振りながら、「助けてー」と叫ぶことだといえます
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