宮沢賢治のクラムボン、想像せずネットで「正体」探し…安易な検索で読解力低下も懸念

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 小中学校への学習用端末の配備で、インターネットによる調べ学習がより身近になった。検索機能をうまく使えば、子供が自ら情報を集め、主体的な学びも進めやすくなる。ただ、安易に検索に頼り、自ら考える力を低下させかねない状況も生じている。

紙の教科書「書き込みやすい」デジタル「情報集めやすい」…文科省、小中学生アンケート公表

すぐ結論

 東京都内の公立小学校では2月、卒業を控えた6年生のクラスで、家族などに感謝のメッセージを刺しゅうでつづる家庭科の授業があった。

 女性教員が作業内容を説明すると、児童たちは学習用端末に「刺しゅう」や「感謝 メッセージ」と打ち込み、検索を始めた。次々と出てくる見本の画像やアニメのキャラクターをそのまま下絵に描き写す。

 端末の配備前は、一人ひとりが教員やクラスメートと話しながらメッセージやデザインを考えていたという。女性教員は「考える過程を飛ばし、すぐに結論を得ようとする。効率的にも見えるが、これで良いのか」と悩む。

 経済協力開発機構(OECD)が、2012年の国際学力テストの成績を分析したところ、コンピューターを使う頻度が多い学校ほど読解力の成績が低かった。

 小学校の国語教科書に採用されている宮沢賢治の童話「やまなし」には、正体不明の存在「クラムボン」が登場する。何であるか明確な説明はなく、想像によって様々な解釈が成り立つ。しかし、神奈川県鎌倉市のある小学校では、クラムボンについて考える課題を出したところ、子供は自ら考える前に端末で検索してしまったという。

 教員養成に携わる藤本和久・慶応大教授(教育学)は「試行錯誤しながら、複雑な事柄を読み解いたり、考えたりする努力に学習の意味がある。安易な端末の利用は思考力の育成を阻みかねない」としている。

「読解深まる」紙が優位

活用模索

 デジタル機器を先進的に導入した自治体でも、端末を活用した読解力や思考力の向上が課題となっている。

 14年度までに小中計34校で端末を配備した東京都荒川区は18年、端末活用についての報告書をまとめた。

 区の意識調査に対し、「学習への興味・関心」が向上したと答えた小中学校はいずれも9割以上だった。一方、「児童生徒の思考力」の向上がみられたのは、小学校3割、中学校2割にとどまった。報告書は「肯定的な回答が少なく、端末を効果的に活用する研究が必要」と指摘した。

 読売新聞の小中学校500校を対象にした調査(回収率65・8%)でも同様の傾向が出ている。デジタル教科書の長所(複数回答)を聞いたところ、「動画や音声を視聴でき、児童生徒の興味関心を高められる」が89%だった。これに対し、「じっくり読むことができて、読解力や思考力が深まる」は2%だった。紙の教科書の場合、43%の学校が、読解力、思考力が深まると回答した。

書いて「探究」

 自分の考えの変化を紙に書かせ、思考力を伸ばそうとする取り組みもある。

 静岡県牧之原市の牧之原中学校の増田真人教諭(58)は、理科の授業で「探究紙」を生徒たちに配り、実験や話し合いの前後に、自らの考えの変化を書かせる。

 生徒は、紙に書き出すことで、自分の考えの間違いに気づき、修正を繰り返すことで思考力を養う。増田教諭は「紙に誤りもあえて残すことが、思考を重ねることにつながる」と話している。

 デジタル教科書や学習用端末に関するご意見、情報をお寄せください。あて先は教育部(メール  kyouiku@yomiuri.com 、ファクス 03・3217・9908)へ。

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