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夏本番が到来し、サウナ後の水風呂がひときわ気持ち良い季節になった。ただ、持病や体調、入り方によっては、急激な温度変化で失神したり、心臓が止まったりする「ヒートショック」が起きうる。発生例は冬場が中心だが、サウナの場合は夏場も要注意で、専門家は「穏やかな温度変化で安全に楽しんでほしい」としている。(石川千佳)
「まさか、上司の心臓が止まるなんて」。京都市の会社員山下貴也さん(41)は3年前を振り返る。当時、会社の上司が飲酒後にサウナ施設の冷たい水風呂に入った後、心臓が止まって救急搬送されたのだ。
幸い、上司は命を取り留め、後遺症もなかった。
しかし、山下さんは怖くなり、それまで大好きだった水風呂をやめた。
今では、サウナ後は椅子に寝そべって10分ほどそよ風を浴びてゆっくりと体を冷やすのが習慣になった。山下さんは「水風呂のような爽快感はないが、寝付きは良い」と話す。
サウナは「体を温める」「水風呂で冷やす」「休憩」を繰り返す「温冷交代浴」が基本だ。温まると血管は拡張し、冷えると収縮する。血管をポンプのように締め緩めすることで疲労回復や筋肉痛を和らげる効果があることがわかってきた。
心身のリラックス効果は「ととのう」と呼ばれ、この10年ほどサウナブームが続いている。日本サウナ総研の推計では2022年に年1回以上サウナを楽しんだ人は約1700万人いる。
会社帰りなどに街中の屋内サウナ施設を利用する愛好者が大半だが、テント式のサウナなどを屋外に設置し、川や湖、海を天然の水風呂にする屋外サウナの人気も高まってきた。
ただ、サウナにはヒートショックのリスクが潜んでいる。
ヒートショックは脱衣場と浴槽の温度差が大きい冬に起きやすい。2011年には交通事故による死者(約4700人)の3倍超の約1万7000人が亡くなったとする研究もある。温度差が大きいとリスクが上がるため、サウナで水風呂との温度差が大きい場合、夏でもリスクは高い。
日本サウナ・スパ協会は、動脈硬化症や高血圧症、心臓病の人はサウナに入らない方が良いとしている。飲酒後も脱水症状が起きやすいため、危険だ。
実際に事故も起きている。6月に栃木県内の屋外サウナで起きた死亡事故を受け、福島県郡山市など4市町(約40万人)を管轄する郡山地方広域消防組合が調べたところ、この地域で2013~22年、サウナ利用中に倒れて救急搬送された人が101人に上った。
症状別では転倒や溺水にもつながる「失神・意識障害」が30人、熱中症・脱水症が24人などだった。担当者は「郡山だけの話ではなく、日本のどこでも起こり得る」と指摘している。
温泉療法専門医で東京都市大の早坂信哉教授(入浴医学)が「リスクの低いサウナ入浴法」として勧めるのが40~50度の低温ミストサウナだ。15分ほどかけてゆっくり体を温めた後、外気浴で体を冷ますと良いという。
100度前後の高温サウナ愛好家には、▽心臓がドキドキしてきたらサウナから出る▽脈拍の上限は1分間120回が目安▽前後に水分補給をする▽徐々に体を熱さに慣らす▽ぬるめのシャワーや外気浴などでゆっくりと体を冷やす――ことを呼びかける。
高い水温の水風呂を用意する施設もある。「神戸みなと温泉 蓮」(神戸市)は、医師監修の下、心臓発作などを防ぐ目的で水風呂の水温を28度に設定した。「ぬるいという意見も多く寄せられるが、安心して入ってもらうためにここはゆずれない」と担当者は話す。
早坂教授は「サウナが危険ということではなく、危険な入り方があるということ。安全な方法でサウナを楽しんでほしい」と指摘している。