読売新聞オンライン デジタル特集 安倍元首相銃撃事件から1年 デジタル特集 安倍元首相銃撃事件から1年

安倍元首相銃撃事件から1年

安倍晋三・元首相が奈良市で街頭演説中に銃撃されて死亡した事件は、2023年7月8日で発生から1年となる。事件は国内外に衝撃を与え、殺人罪などで起訴された山上徹也被告の生い立ちや供述から宗教を巡る議論にもつながった。事件は今も、社会に波紋を広げ続けている。

その時、何が起きたのか。

現場では何が起きたのか。警察庁の検証報告書やSNSに投稿された映像の分析などから、当時の状況を再現する。

発砲まで2分24秒

安倍元首相が演台に登壇

安倍元首相銃撃の図解

午前11時28分42秒、安倍氏は奈良市の近鉄大和西大寺駅北口から約50メートル先に設けられた演説会場でマイクを握った。演台は、車道の一部をガードレールで囲った「中州」のような場所にあり、周囲360度を見渡せる構造だった。安倍氏の背後から様子をうかがっていた山上徹也被告は約300人の聴衆に紛れ、肩に掛けた紺色の鞄には手製の銃を忍ばせていた。

演説に臨む安倍元首相の写真

事件前、演説に臨む安倍氏。右後ろに山上被告とみられる男が映っている。
奈良市で。提供動画から。2022年7月8日撮影

発砲まで1分6秒

山上被告が移動を開始

安倍元首相銃撃の図解

午前11時30分、安倍氏の背後にいた山上被告は、バス停付近の歩道上を南に移動し始めた。その56秒後、山上被告はバスロータリーに進入。山上被告の方向を警戒する警護員はいなかった。事件直前に警護員の配置が変更されていたことが要因だった。さらに、安倍氏の背後を通る自転車や台車を押す男性の接近に気を取られ、警備の「空白」が生まれた。

演説する安倍元首相の写真

聴衆が撮影した動画の一部。安倍氏は、この場面の7秒後に銃撃された。

1発目の発砲

安倍元首相銃撃の図解

午前11時31分6秒、山上被告はショルダーバッグから取り出した自作の銃を右手に持ち、その銃口を安倍氏に向け、約7メートルに迫ったところで引き金を引いた。銃弾は外れたが、山上被告が歩道を出てから、1発目を撃つまでの10秒間、山上被告の接近に気づいた警察関係者はいなかった。

安倍元首相の背後で白煙が上がっている写真 安倍元首相の背中側からの写真

発砲から2.7秒後

2発目の発砲

安倍元首相銃撃の図解

午前11時31分8秒、山上被告は2発目を発射。1発目からわずか約2.7秒後。安倍氏まで5.3メートルの距離まで接近していた。振り向きざまに銃弾を受けた安倍氏は、バランスを崩したかのように演台から降りると、その場に倒れ込んだ。1発目の発砲音で、山上被告に気づき、防弾仕様のカバンを掲げて間に入ろうとした警護員もいたが、間に合わなかった。

撃たれてバランスを崩す安倍元首相の写真 安倍元首相のもとに駆け寄る関係者の写真

発砲から4秒後

山上被告を確保、現行犯逮捕

安倍元首相銃撃の図解

午前11時31分10秒、山上被告は、警護員の一人に腕をつかまれた後、複数の警護員に取り押さえられ、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。その際、山上被告に抵抗するそぶりは見られなかった。安倍氏は駆けつけた救急隊員が心肺蘇生処置を実施し、救急車とドクターヘリで病院に運ばれたが、午後5時3分、失血死で亡くなった。左上腕部から体内に入った銃弾が、左右の鎖骨下の動脈を損傷したことが致命傷だった。

現場の空撮写真 山上被告が確保される写真 山上被告が逮捕される写真 山上被告が確保、逮捕される写真

繰り返された首相襲撃

2022年8月25日、警察庁は、安倍氏の警護についての検証と警護の見直しに関する報告書をまとめた。
報告書では、安倍氏の周囲に奈良県警の警護員3人と警視庁の警護員1人がいたが、4人とも安倍氏の後方にあたる南方向を見ておらず、山上被告の接近に誰も気づかなかった「空白」があり、それが、被害を防げなかった主な原因だと認定した。
また、県警は、6月にも同じ場所で自民党幹事長による応援演説が行われていたことから、その時の警護計画をそのまま踏襲し、制服警官を配置していなかった不備などもあったと総括。要人警護体制の強化に乗り出した。

現場の空撮写真

しかし、2023年4月15日、和歌山市の漁港で岸田首相の演説会場に爆発物が投げ込まれる事件が発生。木村隆二容疑者(24)が、威力業務妨害容疑で現行犯逮捕された。
安倍氏の事件を受け、都道府県警が策定した警護計画を警察庁が事前に審査していたが、「聴衆は関係者のみ」という誤った前提で計画が策定され、関係者以外の出入りのチェックが主催者側任せになっていた。警察庁の露木康浩長官は、記者会見で「わずか1年足らずのうちに事案が発生したことを重く受け止めている」と述べ、民主主義の根幹である選挙活動と要人警護をどう両立するかという重い課題が改めて突きつけられた。

安倍元首相銃撃の図解

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