「博士」不遇の時代、復権への秘策はあるのか

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 [New門]は、旬のニュースを記者が解き明かすコーナーです。今回のテーマは「博士人材」。

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 「末は博士か大臣か」――。かつては将来を嘱望された子供たちの憧れだった「博士」が、不遇の時代を迎えて久しい。大学や企業でのキャリアを描きにくく、博士課程に進学する学生の減少にブレーキがかからないまま。高度な知識を持つ博士人材が復権し、幅広く活躍できる秘策はあるのか。

学部・修士卒より給与アップ

 高度な専門性を持つ博士への道のりは、大学の学部(4年)、修士課程(2年)を経て博士課程(3年)に進むのが一般的だ。研究の集大成である論文の審査に合格すれば、博士号を取得できる。日本では年間1万5000人程度、誕生する。

 そんな博士人材を重用する動きが広がり始めた。大手機械メーカーDMG森精機は4月、博士課程を修了した新卒者の初任給を3割引き上げた。1割増の学部・修士卒と比べても大盤振る舞いだ。日本を代表する研究拠点である理化学研究所も、4月から博士課程の学生や博士号を持つ若手研究者の給与を1~2割程度増やした。「待遇改善で人材を集め、研究力強化につなげたい」との狙いからだ。

 授業料無料で給料も支払われる海外と対照的に、日本の博士課程では、授業料を支払って能力を磨く特殊なカリキュラムが敷かれてきた。大学入学から長く続く負担を理由に、進学を諦める大学院生も少なくない。状況を改善しようと、NECは東京工業大と連携し、院生を経済的に支援する制度を設けた。優秀な人材に修士課程の段階で内定を出し、博士号取得を前提に奨学金返済をサポートする。

 近年までみられなかったこの博士「厚遇」の背景には、急速に進展するデジタル社会などに対応できる数少ない人材を早めに確保しておきたい思惑がある。

将来の生活 不安

 需要がにわかに高まる博士人材だが、ここ20年はお寒い状況が続いてきた。博士課程の入学者数は、2003年度の1万8232人をピークに減る傾向で、21年度には1万4629人に落ち込んだ。博士号取得者を2倍以上に増やした米国や中国、韓国との差は歴然で、「博士離れ」が顕著だ。

 企業側も「専門知識をすぐに活用できない」「社員を教育した方が効果的」といった理由で採用に積極的ではなかった。リチウムイオン電池を発明した吉野彰・旭化成名誉フェロー(75)ら企業での業績でノーベル賞を受賞した研究者ですら、博士課程に進まず、就職した会社で本格的な研究を始めた。

 学究の道に進みたくても、5年前後の有期雇用が増えるなか、将来の生活への不安が募って博士離れに拍車をかけたとみられる。文部科学省が就職した修士課程修了者に理由を尋ねると、「経済的に自立したい」が66・2%、「博士課程に進学すると就職が心配」も31・1%いた。

 修士課程修了後に製薬会社に就職した男性(32)は「就職の方が魅力的だった。ただ働いてみると、海外の研究者からは『博士号を持っているのは当たり前』との反応もあった」と漏らす。

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