「気候難民」が増加、社会不安に…干ばつ・洪水で故郷捨て 

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[地球沸騰COP28]<上>

 今年夏、世界を襲った史上まれに見る猛暑は、「地球沸騰化時代」の到来を予感させた。30日に開幕する国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)にあわせて、温暖化が人々の暮らしを脅かす現場や、世界の対策の現状をリポートする。

ダダーブの難民キャンプで水の支給を受けるソマリアからの避難民たち=UNHCR提供
ダダーブの難民キャンプで水の支給を受けるソマリアからの避難民たち=UNHCR提供

 木々もまばらな乾燥した大地が広がるケニア東部の町・ダダーブ。アフリカ最大の難民キャンプを目指し、隣国のソマリアやエチオピアから避難民が毎日のように押し寄せている。彼らは赤茶けた地面に布きれや枝で粗末なテントを作り、寝起きする。その数は約37万人に膨れあがっている。

 世界の最貧国の一つ、ソマリアが位置する「アフリカの角」と呼ばれる一帯は、6年連続で雨期に雨がほとんど降らず、ここ40年で最悪の大干ばつに襲われた。畑の作物は枯れ、家畜のヤギや牛は次々に死に至る。生きる糧を失った人々は故郷を捨て、国境を越える。

 難民キャンプを運営する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の森山毅・シニア緊急対応調整官は今年5月、現地を訪れた際、その惨状に言葉を失った。

 援助物資の供給が追いつかず、難民たちはやせ細るばかり。不衛生でコレラが 蔓延まんえん していた。イスラム過激派組織「アル・シャバブ」が紛れ込み、支援団体の外国人スタッフを拉致するなど治安も悪化しており、身の安全を守りながらの支援活動が続く。

 今月は突然の大雨による洪水でキャンプのほとんどが水没し、物資の多くが届かなくなった。それでも、現地事務所のスタッフには、8人の子を抱える避難民の女性(33)から「故郷に戻っても子どもたちに食べ物も水もあげられず、生きる希望がない。ここにいるほかない」との悲痛な声が届く。

 ソマリアでは、農民が口減らしで息子をアル・シャバブの戦闘員に引き渡したり、乳飲み子のために母親が売春をしたりする現実がある。「気候変動は、女性や子どもら最も弱い立場の人たちの命を真っ先に脅かす」。森山さんはそう憤る。

紛争による難民を上回る、2050年には2億1600万人に

 気候難民――。近年、洪水や干ばつなど、温暖化による異常気象で住む場所を追われる人たちをこう呼ぶようになった。

 国内避難民監視センターによると、気候変動が原因の国内避難民は2021年、2230万人に上り、紛争による国内避難民1440万人を大きく上回った。世界銀行は、50年までに2億1600万人が移住を迫られると推計する。

 気候難民の増加は、社会不安へとつながる。中米ホンジュラスでは20年に二つの巨大ハリケーンが上陸し、460万人以上が被災。ギャングの横行による治安悪化や貧困が深刻化し、数十万人が米国やメキシコなどの周辺国へ逃れた。

 だが、避難先では不法入国する厄介者として当局に身柄を拘束され、地元住民が難民受け入れ反対のデモを開くなど、摩擦も生まれている。

人口島や集落移動…各国が進める対策

 各国は気候変動から国民を守ろうと必死の対策を進める。

 海面上昇で2100年までに国土のほとんどが水没すると言われるインド洋の島国・モルディブ。政府は首都マレから約5キロ離れた海域に広さ約4平方キロの人工島フルマーレを造成している。すでに移住は始まっており、全人口の1割を超す約6万5000人が暮らす。海上に住宅やホテルを浮かべて都市を作る計画も2028年頃の完成を目指して準備が進む。

 太平洋に浮かぶフィジーは、波浪の被害を受けやすい海岸近くの集落の一部を内陸部に移した。

 今回のCOP28には、UNHCRのフィリッポ・グランディ高等弁務官がトップとして初めて参加する。グランディ氏は10月、来日時の記者会見で、「気候変動で強制的に移住させられることが紛争につながり、さらに難民が増えるという悪循環に陥っている」と述べ、気候難民の支援策を議論する重要性を強調した。

「高潮 スカイツリー襲う」

 気候難民を生み出す要因の一つ、世界の海面上昇は加速している。

融解が進む南極の氷(今年初め頃)=国立極地研究所提供
融解が進む南極の氷(今年初め頃)=国立極地研究所提供

 地球上の氷の9割があるとされる南極。今年9月、その南極の冬場の海氷面積が観測史上最小になった、と米国立雪氷データセンターが発表した。南半球にある南極は9月頃、本格的な冬を迎えるが、海氷面積はピーク時でも1696万平方キロ・メートルにとどまり、1986年の最小記録を約100万平方キロ・メートル下回った。日本列島の2・6倍の広さ。8月には世界の平均海面水温が過去最高を更新しており、同センターは「地球規模で進む海の温暖化により、海氷が減少し始めている可能性がある」と指摘した。

 研究者らが注視するのが、海上にせり出した「棚氷」の急速な融解だ。棚氷は大陸上の氷床が海に流出するのを食い止めているが、棚氷が温かい海水でとければ、陸上の氷が次々に海に流れ出て、氷の減少に拍車がかかる。

 英国南極観測局の試算では、産業革命以降の気温上昇を1・5度以内に抑えても、氷の減少ペースは20世紀に氷がとけた速さの3倍に達するという。同観測局は「温暖化対策をとっても、氷の融解は後戻りできない可能性がある。各国は今後数世紀にわたり、数メートルの海面上昇に備える必要がある」との見通しを示す。

2100年の平均海面水位60センチ上昇

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書は、世界の平均気温が産業革命前より2度上昇すると、2100年の平均海面水位は最大約60センチ上昇すると予測する。海面が上がれば、 島嶼とうしょ 国は水没し、日本でも沿岸部では海岸浸食や高潮・高波による浸水のリスクにさらされやすくなる。

 国際環境NGO「グリーンピース」が2021年、積極的に温暖化対策を取らなかった場合の被害を予測したところ、東京では30年までに巨大台風が接近して高潮が発生すると、隅田川や荒川、江戸川の下流エリアを中心に79・28平方キロ・メートルが浸水し、83万人が被災するとの結果が出た。

 海水は海岸沿いだけでなく、川をさかのぼって東京スカイツリー(墨田区)まで押し寄せるという。

 グリーンピース・ジャパンの高田久代・プログラムマネジャーは、「海面上昇と威力を増した台風のダブルパンチが、高潮被害を拡大させる懸念がある。東京では大人の身長を超えるほどの浸水に見舞われる恐れがある」と警鐘を鳴らす。

39都道府県に海岸保全基本計画の改訂を通知

 海面上昇に備え、政府は21年、海に面した39都道府県に対し、25年度までに海岸保全基本計画を気候変動の影響を踏まえたものに改定するよう通知を出した。

 千葉県は20年、前年の台風15号で高潮被害を受けた富津市の浜金谷港の防潮堤(高さ3・8メートル)を30センチかさ上げした。しかし、政府の通知を受け、計算し直したところ、50センチ分足りないことがわかった。さらに東京湾の潮位の上昇幅は、陸地の地形や風向きで場所によって40センチ~1・4メートルと差があることも判明し、計画改定にはかなりの時間を要しそうだという。県港湾課の加藤剛副課長は「財政が厳しい折、遠い将来の不確実な予測を基に整備費を的確に算出するのも難しい」と戸惑いを隠せない。

 気候変動に詳しい北海道大の青木茂准教授(海洋物理学)は、「応急処置として堤防を大型化しても、自然に立ち向かうには限界がある。人々の脱炭素の意識を向上させるなど、温室効果ガスを減少させる根本的な気候変動策を講じるほかない」と話す。

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