デビュー曲「あなたのキスを数えましょう〜Ｙｏｕ ｗｅｒｅ ｍｉｎｅ〜」（１９９９年）は強烈だった。女子高生、１７歳とは思えぬ圧倒的な歌唱力で幅広い年齢層のファンを一気に獲得した。パワフルでソウルフル、小柄な体形からは想像できないほどの恵まれた声量、そしてエモーショナルな声質。
「子供の頃から歌うことが好きでしたし、内心、自分でもうまいんじゃないかと思っていました（笑）。だからこの道を選んだのですが、プロになった当時は、それまでとは全く違うペースの早さや周囲から寄せられている期待にギャップも感じていましたね」
脚光を浴びて天狗になるのではなく、ついて行けずに戸惑っていたあの頃。それでも夢中で仕事をこなしていたが、いつしか家で歌わない自分に気が付いた。このままだと歌が嫌いになってしまうかもしれない。そこで２００４年に渡英、環境を一転させた。
「半年間、お休みをもらっていわゆる普通の暮らしをしたんです。でも、結局、いつも歌っていました。それで気が付きました、やっぱり私は歌が大好きなんだって」
迷いがなくなりボーカリストとしての覚悟ができた。心の再起動。
０８年からはライフワークともいえるアコースティックライブを開始。ピアノとギターといったような小編成で歌うことに、それまでとは違う心地良さを感じ、新たな発見もあった。
「声の小さな動きや感情の繊細な部分も全てお客さまに届けられますし、ライヴ独特に沸き起こる感情の間の大切さも分かったんです」
昨年は宮本亜門演出のミュージカルにも初挑戦、話題を呼ぶ。
「単独行動が好きな私に務まるかなと思ったんですが、小柳ゆきとしてではなく、別人の振る舞いをしながら歌う体験は非常に面白かったですね。今後も良い機会に恵まれればチャレンジしてもいいかなと思っています」
デビュー１５周年を迎え、より精力的な音楽活動を展開している。これまでの軌跡を楽しめるアルバム「ＴＨＥ ＢＥＳＴ ＯＦ ＹＵＫＩ ＫＯＹＡＮＡＧＩ ＥＴＥＲＮＩＴＹ〜１５ｔｈ Ａｎｎｉｖｅｒｓａｒｙ〜」も絶好調。記念シングル「Ｏｎｅ ｉｎ ａ ｍｉｌｌｉｏｎ／ｒｅｔｕｒｎ ｔｏ ｙｏｕ」にもヒットの兆しがみえる。この歌、実は０７年発売のアルバム「Ｓｕｎｒｉｓｅ」に収録して以来、ファンの間で人気を呼び、シングル化の要望が続出していた。今回は、デジタルリマスターバージョン。本人もお気に入りで、コンサートでは定番曲のひとつになっている。
カップリング曲の「ｒｅｔｕｒｎ−」は自ら作詞も手掛け、リアルに心の内を綴った新曲で、これからの季節にぴったりの温もりあるバラード。
「高校時代からの友人が結婚することになったんです。それで、その子を思い浮かべながら書きました。と言っても、彼女のことをずばり歌っているのではなく、もし、私が結婚するならこんな風に思えたらいいなとイメージして言葉を選んでいます」
現在３１歳。結婚を意識するのは当然の年齢。どうやら、願望はあるらしい。
「いずれは子供も欲しいですしね。でも、ひとりでいるのが大好きなので、今のところ、誰かと暮らすことを切実には望んでいないんですよ」
理想の男性ははっきりしている。「浅田次郎さんの作品に登場するようなヒトが好きです！」
クールなカッコ良さと少女のようなかわいらしさが言葉の端々で交差する。そんな捉えどころのない魅力もパフォーマンスの煌（きら）めきにつながっているようだ。
「正直な話、ハマりやすいけれど飽きっぽい部分もあるので、あえて、こうじゃなければいけないというスタイルを作りたくないんです。その時々で、自分の表現できるモノをストレートに伝えていければいいなと思っていて」
赤い糸を見つけた時、送り出される歌の色合いや奥行きが微妙に変化するかもしれない。それもまた楽しみだ。 （ペン・菅野聖 カメラ・寺河内美奈）
■こやなぎ・ゆき 歌手。１９８２年１月２６日生まれ。３１歳。埼玉県出身。１９９９年、現役高校生でデビューし「あなたのキスを数えましょう〜Ｙｏｕ ｗｅｒｅ ｍｉｎｅ〜」が７０万枚を超えるロングセラーに。２０００年から３年連続でＮＨＫ紅白歌合戦に出場した。
今年４月、オリジナル楽曲として４年６カ月ぶりとなる新曲「ジェットコースター」をリリース。富士急ハイランド２０１３春のイメージソングに。７月には北乃きい、稲森いずみ主演の映画「爆心 長崎の空」の主題歌「ひまわり」を手掛けた。８月「ＴＨＥ ＣＯＮＶＯＹ」今村ねずみによるエンターテインメントショウの舞台に出演するなど活動の場も拡大中だ。
