空港関連の視察をメインにモスクワに行ってきた.
モスクワは上記の通り,綺麗な環状都市である.中心部にクレムリンが,そして
それを取り囲んで直径5Km程度の環状地下鉄(5号線,1960年代完成)がある.
環状地下鉄は,概ね上記地図の一番内側の環状道路の下を通っている.
大きさは,山手線の短い直径(東京−新宿が5Kmぐらい)を想像すればよい.
空港は中心部から北北西に35Kmのシェレメーチエヴォ空港(SVO),南南東に
40Kmのドモジェドヴォ空港(DME)がある(後述).
地下鉄ネットワークは上の通り.地下鉄建設は1930年代半ばより始まり,環状線
完成が1960年代,以降も現在に至るまで着々と工事が進んでいる.都市圏人口が
1200万人はあり,人口増加も止むことがないようで,交通施設整備が喫緊の課題
だ.しかし道路渋滞は酷い.今,ヨーロッパで一番渋滞が激しい都市とも目され
ている.
モスクワといえば,宮殿,美術館のような地下鉄駅が有名.一々駅名を掲げない
が,これも代表的な美しい駅だ.コンコースではなく,プラットホームである.
柱の向こう側で地下鉄が停車する.殆どの駅がいわゆる『島式駅』だ.
この駅では,絵画が掲げられているので,本当に美術館にいるような気分にさせ
られる.天井が高いのも,この構造をもたらした一因であろう.
壁のレリーフ.戦前の作りであろうかと思う.初めてモスクワを訪れる観光客は
皆,この地下鉄に驚くことになる.1)その豪華さ,2)その頻度(1-2分間隔
が当たり前),3)その深さ,4)そのエスカレーターの速度,5)そのドア
開閉の早さ ぐらいかな? 順次紹介しましょう.
これは元素の周期表を作成したロシアの化学者,メンデレーエフを記念した駅.
照明が妙な形をしているが,何でも分子構造を模したデザインとか.ホームの外
壁にはメンデレーエフと,周期表のレリーフが刻まれている.
メンデレーエフ博士は,他にも『ウォッカはアルコール40度が最もウマイ』
ことを発見したことでも有名とか.ロシア産のウォッカは殆ど40度だ.
シャンデリアと天井の装飾が美しい.右端には兵隊さんが一杯いますね.
地下鉄でも,モスクワ市内では軍関係者や,警官を多く見かける.軍は徴兵制が
あり多いのは当然だが,警官は不良警官が多く,あまり近づかない方がよい
らしい.
とにかく地下鉄は混んでいる.1-2分間隔の超高頻度サービスにも関わらず.
また,ドアの閉まり方が容赦ないので,ちょっと乗れそうになければ,すぐ
次の列車を待つのが正解だ.何回か,ドアに挟まれる乗客を見かけた.
地下鉄の到着・発車,そしてハードボイルドなドアの開閉動画はこちら.
そして深いホーム(最深で80m程度とか)への移動はエスカレーターで,エレ
ベータはない(バリアの塊みたいな駅だ).日本ではエスカレータの速度は
30-40[m/分]ぐらいだが,モスクワは60-70[m/分].確かに早い.
エスカレータに乗る動画はこちら.
ここは空いているエスカレーターだが,中心部は混んでいることが多い.
環状地下鉄駅にも隣接しているターミナル駅からドモジェドヴォ空港(DME)
への高速アクセス鉄道が出ている.その車両が入線することろ.空港まで
40分,150ルーブル(約600円).北部のシェレメーチエヴォ空港(SVO)
へのアクセスは悪く,地下鉄−バスの乗り継ぎで2時間近くかかる.この
夏には,このアクセス鉄道と同じ車両・会社の新アクセス手段が開業予定.
DME空港のアクセス鉄道駅.地下ではない.空港隣接駅なので,決して歩行
距離は長くはないが,冬は寒そうだ.
アクセス鉄道のチケット.ただの領収書に見えるが,降車時に下のバー
コードを改札に掲げて出札する.簡単だが,初めて体験するシステムだ.
これがドモジェドヴォ空港(DME)のターミナル.通訳の方の発言,
『SONYのラジカセみたいでしょ』という実感は確かにありますね.
帰りはDME空港から乗り合いバスに乗り,郊外の地下鉄駅から市内に戻る.
これはその郊外駅.ヨーロッパの都市として遜色のない郊外化,郊外SCが
建ち並び始めている.
市内中心を流れるモスクワ川の遊覧船からの視察風景.モスクワ市内は発電所
から一括したセントラルヒーティングとなっている.そのため,市内でこの
ような発電所が散在している.クレムリン宮殿の前にもあるのは違和感を
感じる.
丁度この夜,ヨーロッパサッカーリーグの決勝戦が,ここモスクワの競技場
で行われていた(マンチェスターvs.チェルシーというEngland同士の試合).
市内の繁華街至る所にイギリス人が跋扈して大騒ぎ.翌朝,ホテルのロビー
をビール瓶片手のイギリス人がふらついていたり,帰りの空港出発ロビー内
で応援歌を(大人数で)歌い出すなど,騒がしい時に来てしまった.
市内,中心部のモール.ボリショイ劇場をはじめ,多くの芸術施設が集まる
地区なので,モールにも多くのカフェがあり,国際色も豊か.
この出張,青空を見たのはこの時間帯だけだった....
モスクワの中心,赤の広場+クレムリン(右の塔)+聖ワシリイ大聖堂
(真ん中)らが見える.2008年の5月には,18年ぶりにこの広場で軍事パレ
ードが開催された.そのときの走行線が残っているようだ.しかし,広場は
広いが,ここまで戦車や装甲車がどうやって進入したのか不思議だ.
赤の広場の動画はこちら.
これがモスクワ最大の観光名所の一つ,聖ワシリイ大聖堂.奇妙な『ネギ坊主』
が7つほど集積した建築構造.100ルーブルで中に入れるが,ちょっと陰惨な
印象を受ける.
赤の広場の東に面しているのが,国立百貨店のグーム.19世紀に建てられた
施設で,中はこの通り3階建てになっており,2本のモールを内包する立派な
建築物.お店も世界の代表的なブランドが一堂に会し,まさにヨーロッパの
一流都市として遜色がない.
最後はロシアの代表的な土産品,マトリョーシカだ.日本のお雛様と同様,
ゴルバチョフやプーチンのマトリョーシカも売っていたりする.


さて,旅行前は『アジア・アフリカ系住民が今年になって10人以上,ネオ・
ナチに殺されている』『不良警官から賄賂を要求されたら,逆らわずに500
ルーブル程度を払うこと』『地下鉄などで目立つカメラ撮影は厳禁』など
激増する犯罪を気にしていたが,幸い危険な目には遭遇しなかった.
決して安心できる街ではないが,現地に駐留されている企業の方は,愛すべき
正直なロシアの人柄に親近感を抱くことも少なくないという.
政治・経済・文化も含めて,いまだに激流の中にいるロシア.今後も注視
したいと思う.


なお,出張に先立って,諸々のロシア関連書籍を読んだ.以下の3冊が大変
参考になったので付記しておく.

1)「モスクワ地下鉄の空気」鈴木常浩
 日本人留学生としてvividな体験が綴られると共に,地下鉄に関する記述の
 感性が高く,かつ内容も詳細である.モスクワに暮らす日本人の苦労も
 知ることができる.
2)「ロシアは今日も荒れ模様」米原万里
 米原女史のエッセイ・小説の殆どがロシア絡みで,特にこの一冊という訳
 ではないが,内容のロシア傾倒度からお奨め.ご冥福をお祈りしたい.
3)「国家の罠」佐藤優
 タイトルの『国家』は実はロシアではないのだが,ロシア人やロシア国に
 まつわる情報も満載で面白い.最近出版された亀山郁夫氏との対談新書も
 まぁまぁ参考になるかも



これはドモジェドヴォ空港(DME)の最近の利用乗降客数の推移だ.劇的に躍進している様子が
伺える.この空港は1996年に完全民営化され,East Lineという物流会社が買い取った.
以降,積極的な投資を行っており,JALも2007年12月から不便なSVO空港から移転した.
典型的な民営化の成功例だ.しかし好事魔多し.国に目をつけられ,今年3月の裁判で,
『この空港は国営化すべし』との驚くべき『再国有化』が今議論されているとか.
ロシアのガスプロム社と同様,恐ろしくドラスティックな動きで,目が離せない.
公的な利用が多いとされる小規模なVKO空港も含めたモスクワ3空港のシェアの推移図だ.
やはりDMEの量的な拡大が確認できる.SVOはDMEと対照的に国営空港で,理事に大臣も
名を連ねているとか.国営と民営がこれほど対照的で,かつ両者のブンドリ合戦も顕在化
している,世界的にも希有な事例だろう.いかにも革命後のロシアらしい.