“クラス替え”って毎年じゃなかったの?

“クラス替え”って毎年じゃなかったの?
「長野県内の小学校で初めて“毎年”クラス替えをする学校が現れたらしい」
この話を最初に聞いたとき、私(牧野)は耳を疑いました。クラス替えって毎年するものでしょ?
私が育った埼玉県では、小学校から高校まで毎年のクラス替えが当たり前でした。
気になってクラス替え、いろいろ調べてみました。
(長野放送局記者 牧野慎太朗 安藤公彦)

県内初“毎年”クラス替え

まず、今年度から毎年のクラス替えに踏み切った小学校を訪ねてみました。

長野市中心部にある裾花(すそばな)小学校です。
1学年3クラス、全校児童502人の中規模校です。
クラス替えは毎年やるものじゃないですか?
応対してくれた宮島卓朗校長に、さっそく疑問をぶつけると、笑顔で次のように答えてくれました。
宮島卓朗校長
「県外では毎年クラス替えするところもあるみたいですね。ただ長野県の小学校では2年か3年に1度のクラス替えが当たり前で、うちの学校でも2年に1度、3年生に上がるときと5年生にあがるときにしていました。それを新年度からは、毎年行うことにしました」
長野県教育委員会に確認したところ、県内の小学校354校のうち、2年に1度が約40%。3年に1度が約10%。
残りはそもそもクラス替えができない1学年1クラスの学校でした。

なぜ“毎年”に?

最大の狙いとして宮島校長が挙げたのが、人間関係の固定化の解消でした。

2年間、児童の顔ぶれが変わらず、担任の先生もほとんどが持ち上がりという状況だと、どうしてもクラス内だけに目が向いた、狭い人間関係に陥りやすかったと指摘します。
宮島校長
「(クラスの)壁っていうようなものが、もしかしたら強くあって、ほかのクラスの友達とあまり関わりがなかった面も見られたんじゃないかと」
ただ、長年続く“当たり前”を打ち破るのは簡単ではありませんでした。

去年11月、保護者向けに通知を出して意見を募ったところ、肯定的な意見が18件だったのに対し、否定的な意見は25件にのぼりました。
「人見知りな子にはつらい」
「浅い人間関係になり友達と呼べる仲間ができない」
「先生も子どもも互いを理解するのに1年では足りない」
何せ、親世代も「2~3年に1度」が定番だったのです。

実際に保護者に話を聞いてみると、戸惑いや不安から、すぐには受け入れられなかったという声が多く聞かれました。
それでも、宮島校長は繰り返し説明会を開き、半年近くかけて理解を取り付けていきました。
宮島校長
「クラスの壁をできるだけ低くして別のクラスの児童とも互いに交流し刺激し合って成長してもらいたい。教員には自分のクラスにだけ責任を持つのではなく、他のクラスの児童にも目を配ってほしいという思いがありました」

クラス替えに地域差あり?

取材を進める中でどうしても拭えなかった疑問があります。

それは、なぜ長野県と私の出身地・埼玉県でクラス替えの頻度が違うのかということでした。

各地の状況はどうなっているのか。47都道府県を調べてみることにしました。
実はクラス替えの頻度について、国や都道府県に明確な指針はなく、やり方は各学校の判断に任されています。

それでも、教育委員会の担当者や教員に、現場の状況を聞き取ったところ、地域ごとの傾向の違いが見えてきました。
その結果がこの地図です。

「2年に1度の学校が多い」と答えたのは、東北や甲信越を中心に7つの県。
「毎年の学校が多い」と答えたのは、西日本や首都圏を中心に22の府県。
そのほかは「両方ある」や「傾向が分からない」という回答でした。

理由についても尋ねてみました。

「2年に1度」派
○低学年・中学年・高学年ごとの区切りで一貫した指導がしやすい。
○教員と子ども、または子どもどうしで深い人間関係が築ける。

「毎年」派
○さまざまな児童や教員と出会う機会があった方がよい。
○いじめなどクラス内のトラブル解消のため。

「毎年」派が勢い増す

全国的に優勢に見える「毎年」派。
実は、その勢いが強まっていることもわかってきました。

少なくとも15の府県から「毎年クラス替えをする学校が増えている」という声が聞かれたのです。

このうち福岡県の担当者は、かつては「2年に1度」が主流だったものの、平成20年代から「毎年」への置き換わりが進んだと証言しました。

なぜ?「毎年」派が増える理由

学校経営に詳しく、中央教育審議会の副会長も務めた千葉大学の天笠茂名誉教授に聞いてみると。

「クラス替えは、かつては多くの地域で『2~3年に1度』で、担任も替わらないのが一般的だったが、時代が進むにつれて頻度が増えてきている」と指摘しました。

さらに別の専門家にも聞くと、「毎年」派が増えている背景として、3つの変化が浮かび上がってきました。
変化1「チーム教育」 千葉大学 天笠茂名誉教授
「かつては担任が時間をかけて児童を深く理解し、学級内で子どもを育てるという考え方が定着していた。しかし児童との相性の良し悪しもある中で、複数の教員がチームを組んで分担・連携しながら子どもに向き合うやり方に変わってきている」

変化2「多様性の確保」 信州大学 伏木久始教授
「より『多様性』が尊重される社会となり、常にさまざまな相手とうまく折り合いをつける能力が一層求められてきている。学校の中でいかに『多様性』を育む環境を作れるかと考えた時の1つの方法が毎年のクラス替えだった」

変化3「不公平の分散化」 信州大学 伏木久始教授
「担任にも個性があり学級運営の方針もクラスごとに違う。ただ保護者からすると、隣のクラスがやっていることをやっていない、隣のクラスの方がよかったなど、『不公平』を指摘する声が学校に多く寄せられるようになっている。『不公平』を分散化するというか、なだらかにするというか、熱心な保護者の意見をくみ取りながら学校運営をしていく必要性が高まっている」

新クラスで新学期スタート

4月上旬。
児童も先生も新しい顔ぶれでスタートした裾花小学校を訪ねました。

新4年生の学級で、毎年のクラス替えをどう受け止めるか、改めて聞いてみました。
児童
「毎年のクラス替えに反対する気持ちもあったけど、いまは学年みんなと仲良くなれるからいいと思う」
「知らない子もいて緊張したけど、みんな友達になれたら嬉しい」

担任
「子どもが不安を抱えないか心配する気持ちもありましたが受け入れている気がして新しいクラスで頑張ろうって感じに見えました」
宮島校長は、毎年のクラス替えの定着に向け、「デメリットをなるべく少なくしてメリットをなるべく大きくする」ことをポイントに挙げたうえで、今後、クラスを問わず交流できる機会を増やし、多様な人間関係を築けるよう取り組んでいく考えを示しました。

変わる時代 望ましい方法は

学校を取り巻く環境とともに変化を続けるクラス替えのあり方。

その足元では、少子化に伴う児童数の減少によって、物理的にクラス替えが不可能な学校も増えています。

そうした中、学年という枠にとらわれたクラス替えを見直す動きも出始め、東京学芸大学の付属小学校は、授業以外の時間を1年生から6年生が一緒に過ごす「異学年混合クラス」を導入しました。

一方で、クラス替えを論じる際に忘れてならないのが、頻度の増加は、ただでさえ忙しい教員のさらなる負担増大につながりかねないという視点です。

子どもや学校にとって、どういう姿が望ましいのか。

過去や前例にとらわれず、幅広く議論することが大切だと感じました。
長野放送局記者
牧野慎太朗
2015年入局
宮崎局を経て現職
クラス替えは小学校からずっと毎年。
2年に1度を経験したかった気持ちも。
長野放送局記者
安藤公彦
2009年入局
熊本局、札幌局、社会部文科省担当などを経て現職
小学校時代を過ごした茨城ではクラス替えは毎年。
転校した岡山では1学年1クラスしかなく少し戸惑ったのを覚えています。