新成人は狙われやすい?
消費者被害の現状は

2022年12月27日

ことし4月に成人年齢が18歳に引き下げられて半年が過ぎました。

国民生活センターのまとめによると、新たに成人となった18歳と19歳から「脱毛エステ」に関する相談が去年の同じ時期の7倍に増えているということです。

成人年齢の引き下げで増加が懸念されていた若者の消費者被害。
現状はどうなっているのか、取材しました。
(福岡放送局 郡司幸耀/ラジオセンター 瀬古久美子)

成人年齢引き下げで消費者被害は?

A子

この前エステ始めたんだけど、脱毛とか、痩せる食事法とか、人間関係の対処の仕方とか教わって自信がついたんだよね

B子

エステやったことないなあ。大学ってキレイな子多いよね。私も変われるかな?

A子

せっかくだからやってみたら?月1回の12回コースで30万円。分割できるから月々の負担は小さいよ

B子

うん、やってみる

ある大学で実際に学生が巻き込まれた消費者トラブルです。

大学生で18歳のB子は、SNSで知り合ったA子から誘われて脱毛エステの契約を結んでしまいました。誰にも相談せず、高額なプランを契約してしまったということです。

成人年齢の引き下げにより、18歳になったら親の同意がなくてもさまざまな契約ができるようになりました。
一方で、親などの同意を得ずに結んだ契約を原則あとから取り消せる「未成年者取消権」が使えなくなるため、若者の消費者被害が増えるのではないかと懸念されてきました。

国民生活センターによると、新たに成人となった18歳と19歳から全国の消費生活センターなどに寄せられた相談は、ことし4月から10月までで合わせて5108件。
去年の同じ時期に比べて急増はしていないということです。

国民生活センター相談情報部 相談第2課 飯田周作課長補佐

国民生活センター相談情報部 相談第2課 飯田周作課長補佐
「相談件数としては、それほど急増している傾向にはないです。18歳、19歳の若者、それに若者を見守る大人への啓発や注意喚起がなされてきたことに加えて、事業者の中には、新成人に対して契約や勧誘を慎重に行う取り組みをしているところもあることが理由にあげられます」

なぜ急増?脱毛エステめぐる相談

ただ、意外な傾向もみえました。

内容別にみると「脱毛エステ」に関する相談が最も多く、合わせて716件。
去年の同じ時期に比べて、およそ7倍に急増しているのです。

具体的には

  • 広告に掲載されていた施術を希望したのに高額なプランを勧められ契約してしまった。
  • 体験のつもりが強引に契約を迫られた。

こうした相談が寄せられているといいます。

それにしても、一体なぜ脱毛エステが増えているのでしょうか。

国民生活センター相談情報部 相談第2課 飯田周作課長補佐
「成人年齢の引き下げに加えて、男性の脱毛エステの契約が増えていることが理由だと考えられます。脱毛エステは、インターネットやSNSの広告などで多く見られるようになってきました。広告を見て、これまでは女性が中心だったのが、男性もサービスを利用する機会が増えています」

さらに、飯田さんは訴えます。

「『安さ』だけを強調している広告は鵜呑みにしないでください。そうした広告を見てエステ店に行くと、より高額な契約を勧誘されて、周りの人に相談しないまま契約をしてしまい、後日支払えないといったトラブルも出ています」

被害を防げ!福岡大学の取り組み

こうしたトラブルや被害から学生たちを守ろうと、福岡市の福岡大学では学生と連携して新たな取り組みを始めました。

福岡大学

キャンパスには学生の相談に無料で応じる法律事務所があります。
契約をめぐるトラブルや詐欺被害の相談は、成人年齢が引き下げられた4月から9月末までの半年間で11件。すでに昨年度1年間の2倍以上で、18歳や19歳からの相談が目立つといいます。

どうすれば被害を食い止められるか。
考えたのが、実際の相談事例をもとにした動画を学生と一緒になって作ることです。

西 亜沙美 弁護士

学生から相談を受けてきた西 亜沙美 弁護士
「相談の中には100万円に近い契約のトラブルもありました。被害にあえば、アルバイトをしても返済に消えてしまうし、生活自体が圧迫されて、せっかくの学生生活に影響が出てしまいます。実際に同じ大学に通う学生が被害を受けた実例を示せば伝わるのではないか。そんな思いで動画制作を提案しました」

西弁護士によると、4月に新入生対象のセミナーで「消費者被害に気をつけましょう」と説明をしたそうです。しかし、実際に相談に来た学生たちはセミナーでの話を全く覚えていなかったということで、なんとか学生の頭、そして心の中に印象づけたいと考えたといいます。

4本の動画 実際のトラブルから

10月中旬、キャンパスを訪れると学生たちが動画の撮影を行っていました。

作成する動画は全部で4本。
テーマは「脱毛エステ」、「出会い系サイト」、「副業」、「マルチ商法」。
どれも実際に被害相談があった内容です。

この日は、実例をもとにマルチ商法の勧誘に関する再現映像を撮影していました。

登場人物は、女子学生とマッチングアプリで知り合った男性。

男性

自分もやっているんだけど、ぶっちゃけ先月20万円稼げたんだよね

女子学生

難しくないですか?

女子学生が悩んでいると、男性がもう一押しすることばをかけます。

男性

入会金は80万だけど、今入会すれば40万になるよ。それに人に紹介すれば入会金の15%が自分に入ってくる。稼げるようになってから返済すればいいよ

女子学生はいったん断ったものの、その後もまた会う約束をしてしまいます。

そして次に会った時、女子学生は「入会金40万円がいますぐ準備できなくて」と断ろうとしますが、「とりあえず契約書を」「消費者金融に借りて、稼ぎ出してから返済すればいい」などとたたみかけられます。

不安を抱きながらも、言葉巧みに誘われて断れなくなってしまった女子学生。
消費者金融から借り入れをして、契約書にサインもしてしまいました。

この学生のケースでは、結局金を稼ぐことはできず、男性にも返金を求めましたが、連絡がつかなくなってしまったということです。

動画制作には、新成人になったばかりの学生も参加しています。
一体何を感じたのか、話を聞いてみました。

新成人の男子学生
「自分たちが被害にあうことがあるなんて、正直この動画作りに取り組むまでは考えたことがなかったです。想像したこともない手口や、金額が大きくて学生だけでは返せないような被害が実際に起きていることに、すごく驚きました」

新成人の女子学生
「詐欺についていろいろ調べたり自分で勉強するなかでSNSを通じたやり取りだとか、そういう切り口でうまくだまされてしまうという例は、身近に感じました。この先、自分でいろんな契約をすると思うんですけど、そのときは自分の責任なので気をつけたいです」

半年かけて制作した動画は、12月26日、大学のホームページなどで公開されました。

「被害者にも、場合によっては意図せず加害者にもなりうるものです」として詐欺被害などへの注意を呼びかけています。

被害にあわないために、そして被害にあったら

消費者被害にあわないために何が必要か、改めて国民生活センターに聞きました。

国民生活センター相談情報部 相談第2課 飯田周作課長補佐
「18歳、19歳の新成人は、社会経験や取り引きの経験が不十分なので、つけ込まれて悪質な勧誘のターゲットになりやすいんです。加えて学生の場合、経済的な面、支払い能力も十分ではありません。成人になれば、自分の契約行為には責任が伴うことを十分理解してほしいです。そして、何より契約は慎重に行うことが大事です。少しでも不安に思ったら、なるべく早く消費生活センターに相談してください」

消費者被害防止のポイント

  • 若者は悪質な勧誘のターゲットになりやすい。
  • 契約は慎重に。
  • 少しでも不安に思ったら消費者ホットライン「188」や周囲に相談を。

社会経験の浅い若者はだます側にとって「いいカモ」だといいます。
「私はだまされない」と思っていても、だまされてしまうこともあります。
そんなときには、誰かに相談する勇気も必要だと感じます。
大人になった皆さんですが、判断に迷うことがあれば、周囲にいる“大人の先輩”をぜひ頼ってください。そして困ったら、早めに消費者ホットライン「188」に相談してほしいと思います。
あなたの身近なところで被害は起きています。

福岡放送局記者

郡司 幸耀

2019年入局
初任地・福岡局で司法取材などを経て現在は災害・航空取材などを担当

ラジオセンター記者

瀬古 久美子

2005年入局
社会部などを経て現在はラジオの取材や制作を担当
学生時代、駅でエステの勧誘にあったときは、はっきりNOと断りました