目指せ!時事問題マスター

1からわかる!関東大震災・首都直下地震(2)いつ起きる?その時どうなる?

2023年09月27日
(聞き手:田嶋瑞貴 堀祐理)

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10万人以上が犠牲になった「関東大震災」の発生から100年がたち、今、首都圏はマグニチュード7クラスの「首都直下地震」がいつ起きてもおかしくないと言われています。

「首都直下地震」が起きたらその時どうなるか、どのように備えておくことが必要か、災害取材のスペシャリストに1から聞きました。

発生確率「今後30年以内に70%」

学生
田嶋

「首都直下地震」とニュースでも聞きますが、本当に起きるんでしょうか?

いつ来るかまでは分かりませんが、首都圏でマグニチュード(以下M)7クラスの大地震が、きょう起きても全く不思議ではありません

島川デスク

教えてくれるのは首都圏局の島川英介デスク。東日本大震災や熊本地震など地震の現場を多く取材し、社会部では災害担当として緊急報道や減災報道に携わってきた災害取材のスペシャリスト。

日本の首都圏で大地震が…。

その確率は「今後30年以内に70%」。これが政府の地震調査委員会が示した数字です。

学生

30年以内に70%ですか…

その根拠を詳しく見ていきます。

まず、そもそもですが、「首都直下地震」とは「東京湾の直下を震源とする地震」といったように1つの決まった震源を指す地震ではありません

「今後30年以内に70%の確率で起きる」と言っているのは、東京や埼玉、千葉、神奈川をはじめ、茨城や山梨の一部といった地域のどこかを震源として起きるマグニチュード7クラスの地震のことなんです。

つまり、その地域のどこで起きるかは分からないけど、大地震が起こりえるということですか。

そういうことですね。

M7クラスの地震 「活動期」に?

なぜ、そう言えるのか。首都圏で過去の地震をまとめた下の年表を見てください。

一般に「関東大震災」と言っているのは、100年前の1923年に起きた「大正関東地震」のことです。右側の赤い点です。

その220年前、左の赤い点、M8.2の「元禄関東地震」が起きたことも分かっています。

この2つは、M8クラスの巨大地震。東日本大震災を起こした地震と同様に、プレート境界型の地震です。

関東大震災の詳しい被害や地震の仕組みについては、「1からわかる!関東大震災・首都直下地震(1)」をご覧ください。

今回、注目してほしいのは「大正関東地震」と「元禄関東地震」の間の期間です。

江戸時代から大正時代なので、地震の記録が比較的、残っているのですが、M7程度の地震が頻発していたことが分かっています

黄色の点で示しているもので、場所は様々ですが、実に8回も起きています。

「関東大震災」が発生する少し前の時期が多くなっていませんか?

そうなんです。この220年間の前半を「静穏期」、後半を「活動期」と言う専門家もいます。

「大正関東地震(関東大震災)」の前にM7クラスの地震が増加

大正関東地震(関東大震災)の発生から100年がたち、まさにこれから「活動期」に入るとも指摘されているんです。

黄色の点の地震はすべて震源が南関東で、これがまさに「首都直下地震」にあたるものです。

巨大地震より規模はひとまわり小さいといっても、M7クラスの地震が都市の直下で起きれば被害は甚大になります。決してあなどってはいけません。

過去のM7クラスの地震

阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)はM7.3、震度7の揺れを2度観測した熊本地震は前震がM6.5・本震がM7.3、2004年の新潟県中越地震はM6.8で、大きな被害を引き起こしている。

ですから、被害を具体的に想定しておくことや意識して備えておくことが大切になってきます。

驚きの被害想定 建物被害約20万棟

もし首都直下地震が起きたら、どんな被害が想定されているんでしょうか。

少し遡りますが、2013年に国の検討会がM7クラスの首都直下地震が起きるパターンを想定しました。全部で19あります。

出典:内閣府「首都直下地震の被害想定 対策のポイント」より

このうち大きな被害が予想される「都心南部直下地震」については詳しい被害想定があります。

想定では、マグニチュードは7.3、最大震度は江東区と江戸川区で震度7東京23区のほかのほとんどの区は震度6強です。

また、東京、神奈川、埼玉、千葉の多くの市なども震度6強とされています。下の図のオレンジで示した範囲です。

都心南部直下地震 想定震度(出典:中央防災会議)

震度7…。想像もできませんが、どんな状況になるんですか?

震度6強で、人はほとんど立っていることができず、はわないと動けないほどの揺れです。

震度7となると、耐震性の低い木造住宅は倒壊するものが多く出てきます。鉄筋コンクリートの建物でも、耐震性が低ければ倒れるものがあります。

また水道などのライフラインが使えなくなり、電車や飛行機などの交通機関もストップしてしまうことが想定されます。

怖いですね…。

より具体的な状況を、東京都が去年まとめた最新の被害想定で見ていきましょう。

特に被害が大きくなるのは、冬の午後6時に、風速8メートルのなか、M7.3の「都心南部直下地震」が起きた場合です。

被害は東京都以外にも及ぶが、被害想定は東京都内のみの数字

地震の揺れで8万棟以上の建物が全壊、それを上回る11万棟余りが火災で焼失すると想定されています。あわせると20万棟近い被害です。

そうした被害で、東京都だけで死者は6000人を超えけが人は9万人を超えると見込まれているんです。

そんなにたくさん…。

受け入れられない? 避難者数 最大299万人

また特徴的なのは、帰宅困難者や避難者が多いことです。

会社や大学などに出かけている人も多いでしょうから、帰宅困難者は450万人を上回ります。

道路には帰宅する大勢の人が(2011年3月11日 東京 新宿区)

自宅を目指して歩いてもスマートフォンの充電が切れて道が分からなくなったり、家族とも連絡が取れなくなったりする可能性があります。

コンビニやスーパーマーケットも被災して利用できなくなるおそれがありますね。

ふだんとは状況がまったく違ってしまいますね…。

避難者は、家庭の備蓄がなくなる4日後から1週間後までにピークをむかえ、最大およそ299万人に上ると見られています。

このうち避難所への避難者は199万人という想定ですが、収容力を超えた住民が避難した避難所では、廊下や階段の踊り場なども避難者でいっぱいになるおそれがあるとされています。

熊本地震のあと混雑する避難所 2016年4月

それに支援物資も必要ですよね。東京都の想定では、地震から1週間までの必要な物資は、都全体で食料が最大で約4700万食、飲料水が約6800万リットルと見込んでいます。

地震の混乱のなかで、これだけの物資を行政が用意することはできないと考えられます。とにかく食料も水も足りなくなるという事態が想定されます。

そうですよね…。

避難所でもご飯が十分に食べられない状況が続くおそれがありますし、公民館や体育館などの硬い床での寝起きなど、厳しい生活が続きます。

また、断水になれば体も洗えなくなりますし、特にトイレは水が流せないと不衛生です。

プライバシーの確保も難しく、心身ともに疲れがたまっていきます。

避難所の生活は、そんなに大変なのですね…。

このような状況になると、仮設住宅をいち早く整備することが重要になりますが、専門家の試算では首都直下地震の後には仮設住宅が18万戸、不足するという指摘もあります。

仮設住宅の不足

国の被害想定では最悪の場合、東京都内で約57万戸の仮設住宅が必要になるとされている。

しかし、プレハブの仮設住宅を建てる土地が限られていること、“みなし仮設住宅”として提供できる賃貸住宅の家賃に上限があることなどから、十分な数が確保できず、都内で約18万戸の仮設住宅が不足すると専門家が指摘。

住宅が被災しても、安心して住める場所が確保できないかもしれない…。

そうです。家族が東京以外にはいないという方も増えてきているので、仮設住宅の不足は深刻な課題になっています。

首都直下地震では震源地や時間帯によって被害を受けるエリアや大きさが変わります。被害の詳細は、国や都の想定を確認してください。

また、東京23区ごとにポイントを解説しているわがまち防災も、合わせてご覧ください。

復興も一筋縄ではいかない

そして、地震の影響は長く続くことも予想されます。

国の被害想定では、首都直下地震による経済的な被害は約95兆円とされています。年間の国家予算に近い金額です。

経済的被害

建物が壊れるなど直接的な被害は約47兆円、企業の生産活動やサービスが低下する間接的な被害は約48兆円と推計されている。

さらに土木学会が行った想定では、最悪の場合の被害額が地震から20年間で約730兆円にのぼるとされました。

道路や港湾のダメージによる物流の停止、工場の生産機能などがストップすることを考慮した想定です。

東日本大震災の経済的被害は約16兆9000億円とされている(内閣府)

株価の暴落や、日本が国際的な競争力を失う可能性があることも考えれば、被害額はさらに増えることになります。まさに国難級の災害です。

そんな地震が起こったら、元どおりに立ち直るまでにはかなりの時間と労力が必要ですよね。

ですから、地震が起こったあとの復興をできるだけスムーズに行うために、事前に備えておくことが重要になります。

そのために注目されているのが「事前復興」と呼ばれる取り組みです。

「事前復興」とは、どんなものですか?

被災した後のまちの将来像をあらかじめイメージし、どんな形で復興させたいのか、行政と住民が共有しておく取り組みです。

被災後にまちづくりの合意形成をすると、復興が遅れて仮設住宅での暮らしが長期化することにもつながりかねません。

逆に、復興の将来像が見えていると、仮設住宅の建設地や災害廃棄物をどこに集めるかといった準備も進みやすくなります

東京都が取り組みを進めているほか、南海トラフ地震の被害が想定されている自治体でも事前復興の計画をつくる動きが進んでいます。

”ふだん使い”の災害に強い街へ

最後に、私たちにもできることはありますか。

これから社会で働くみなさんに覚えておいてほしいのは「フェーズフリー」という考え方です。

フェーズフリー

近年注目されている防災の考え方で、フェーズ(phase)とは「日常時と非常時の区切り」、フリー(free)は「なくす」という意味。日常で使うものを災害時にも役立てようというもの。

災害に備えることはとても大切ですが、一時的な意識にとどまりがちです。「いつも」利用しているモノやサービスを、「もしも」のときにも役立てられれば、それが備えになりますよね。

分かりやすいものだと、公園に災害用のトイレになるマンホールがつくられたり、災害時にはかまどになるベンチが設置されたりしています。

東京 豊島区の「イケ・サンパーク」もフェーズフリーの考え方を取り入れている 園内の並木道に燃えにくいとされるシラカシの木を植え「防火樹林帯」に

「はっ水加工されていて非常時にはバケツとしても使えるエコバッグ」のような、フェーズフリーの考え方を取り入れた防災グッズもあります。

ふだんから使えて、いざというときにも役立ちますね!

学校教育でもフェーズフリーの視点が盛り込まれた事例があります。小学校の国語の授業で防災用語をさりげなく学んだり、算数の授業で津波の速さを動物が走る速さと比較したり、といった取り組みです。

防災のためだけに限定しないことが、結果として持続可能な防災につながるんです。

冒頭にも言いましたが、近い将来起きる可能性の高い大地震にしっかり備えるためにも、こうした「事前復興」や「フェーズフリー」の考え方を生かして、災害が起きてもいち早く復興できるまちにしていけるといいですね。

ありがとうございました!

撮影・編集:岡谷宏基

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