職人を確保できずに受注機会を逸する。受注しても工期が遅延する。深刻な職人不足が進む住宅建築の現場では職人の確保が元請け会社の生命線。職人にとって仕事を受けたくない「残念な元請け」と見なされれば、どれほど付き合いが長くても、すっぱりと見限られることになりかねない。下請け工事を手掛ける職人たちの経験談やアンケート結果から、選ばれる元請けになるためのヒントを探る。
下請け会社が嫌がる「残念な元請け」
目次
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事例1 現場入りしたのに作業できず
建築工事では、様々な工種の専門工事会社が下請けとして現場に出入りし、工程上のタイミングによっては複数の工種が同時に作業することになる。元請け会社は工種同士で干渉しないように、スケジュールをきめ細かく設定する。それが十分でない元請けは、有能な下請けから敬遠されることになる。
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事例2 段取り悪く性能や品質が犠牲
工程管理が甘いため、住宅自体の性能や品質が犠牲になる現場もある。ホウ酸による防蟻処理作業を手掛けているB氏は、元請け会社と事前に取り決めた日程どおり、現場に足を運んだところ、前日の雨で躯体がまだぬれていた。
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事例3 職人になめられる若い監督
元請け会社は通常、付き合いの深い専門工事会社のネットワークを持っているものだ。しかし現場によっては、“なじみ”ではない他の職人が加わることもある。現場監督が統率できないと職人同士のコミュニケーションがうまくいかず、現場の雰囲気が悪くなり、作業の効率や品質に悪影響を及ぼすこともある。
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事例4 初顔合わせの職人ばかり
雰囲気が悪い現場ではいろいろな問題が発生する。左官・タイル工事の職人であるB氏が最近経験した現場は、初めて顔を合わせる職人ばかりのためにギスギスした雰囲気となり、様々な問題が発生した。
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事例5 自分本位の“ヘルプ大工”
家づくりで、現場に最もベタ付きになるのは大工職だ。現場に出入りする職人たちにとっては、元請け会社の現場監督と同じく大工職も、円滑な現場づくりで重要なファクターになる。自分勝手に作業を進める大工職は、職人たちの作業でむしろ障害となり、施工の効率や品質を著しく低下させてしまうことになる。
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事例6 「社長と友達」のワガママ大工
現場を仕切る大工職に迷惑を被ったという職人の話は、他にもよく聞く。それだけ施工管理が機能していない現場が多いということでもある。左官・タイル工事を手掛けるB氏が関わった現場では、高齢の大工職の身勝手な振る舞いが、他の職人の仕事に悪影響を与えていた。
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事例7 追加・変更の連発で常に残業
建て主の要望が第一。確かにその通りだが、それで現場が混乱するケースも少なくない。営業重視に傾きすぎた元請け会社に多いのが、建て主に言われるままに対応すること。設計上の追加や変更が重なることで、作業の手戻りなど現場の効率が悪くなる職人に必要以上の負担を掛け、施工ミスなど不具合の発生にもつながりやすい…
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事例8 営業トークの“後始末”で混乱
営業担当者のオーバートークが下請けに与える影響は、思わぬところにもある。住宅の気密測定を手掛ける会社のB氏が関わった現場のケースがそうだった。
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事例9 イベントがとにかく多い
元請け会社にとって「現場」は、自社の技術力や品質を建て主にアピールする重要な舞台だ。しかしそうしたアピールが行き過ぎると、現場を担う職人たちの作業効率やモチベーションをかえって低下させてしまう。元請けが「よかれ」と思って実施することが、現場の職人たちにとっては深刻な負担となるケースもある。
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事例10 建て主への過剰なアピール
建て主へのパフォーマンスとして、最近増えているのが「はだしで歩ける現場」だ。大工職のB氏が関わっているある工務店の現場ではいずれも、各職人に次のような作業上の“作法”が求められている。
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「手離れ」か「対価」をしっかりと
職人が元請けを評価する視点はドライだ。突き詰めると、現場で費やす労力や時間に対して対価が十分かどうか。職人にとって「手離れの良い現場」を実現するか、手戻りなど余分に生じた手間に見合う対価を支払うか、いずれかがカギになる。
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4分の3が不満を抱き 関係を断ち切る場合も
戸建て住宅で下請け工事を手掛ける実務者の多くが、元請け会社への不満を抱いている。不満の主因となっているのは、元請けの発注内容や現場管理について。しかし、そうした不満を全て元請けに伝えている下請けはそれほど多くない。不満を抱かせる元請けに対しては最悪の場合、「関係を断ち切る」との声も挙がった。