「想定外」と言われる津波が東北沿岸部に壊滅的な被害をもたらした東日本大震災から10年。道路や防潮堤の整備、高台移転など多くのインフラ事業が進んだ。しかし、復興で成し遂げられたこと、成し遂げられなかったことの評価・検証は進んでいない。将来の大災害に備えるために、復興の取り組みの10年を総括する。
復興はまだ終わらない
東日本大震災10年
目次
-
一様な防潮堤の突破口が気仙沼に
東北の被災地には一様に、巨大な防潮堤が建設された。ただ宮城県気仙沼市のように、住民の声を反映して防潮堤を後退させたり、造らなかったりした地区もある。数少ない事例から得られる教訓を、次に起こり得る津波災害に生かさなければならない。
-
進捗したインフラの真価はこれから
東日本大震災からの復旧・復興事業のインフラ整備は、大半がこの10年でほぼ完了する。復興予算で優遇され続けた成果だが、人口減少や住民ニーズの変化で風当たりも強い。今後、ストックとして居住者の生活を向上させ、避難した住民の帰還を促せるか否か、真価が問われる。
-
「新設で良質なコンクリート」が定着
コンクリートの品質を確保する丁寧な施工体制を確立させ、環境に合わせた劣化対策を設計で盛り込む──。復興道路では品質と耐久性を確保する取り組みが定着し、試行工事から手引作成、水平展開までを実現した。初期の変状が大幅に減るといった効果も表れており、全国へ取り組みが波及している。
-
買収型の津波復興拠点整備に活路
復興交付金の効果促進事業や取り崩し型復興基金で、各自治体は地域の特性に応じた復興を進められた。復興交付金の基幹事業では買収で復興街づくりを進める津波復興拠点整備事業が、効果を発揮している。ただし基幹事業の1つである土地区画整理事業については、課題も残った。
-
長期戦の廃炉を支える土木技術
福島第一原子力発電所における復興は、最長で40年かかるとされる廃炉事業だ。東京電力は事故の影響を抑え、事故の再発や廃炉の中断を防ぐ対策に土木技術を生かしている。その成否は全国の原発に対する信頼の回復に直結する。
-
即時のシミュレーションで命を救う
東日本大震災では、救援に向かう人や避難する住民に十分な情報が届かなかった。その教訓を基に、災害直後にリアルタイムで正確な被災情報を出す技術が求められた。想定外の事態にも対応できる津波被害のシミュレーションや避難誘導システムが生まれている。
-
34mの津波想定でも諦めない
想定外の災害からの復興は極めて難しいと、東日本大震災で多くの自治体が痛感した。南海トラフ巨大地震や首都直下地震など、今後も大規模災害が訪れる確率は高い。東日本大震災と同じ徹(てつ)を踏まないために、災害前から復興を検討しておく「事前復興」が重要になる。