顧客を深掘りするためには、顧客の課題を数多く把握しておくことが重要です。すぐに見込み案件にならなくても、ソリューションの芽がどこにあるのかが分かっていれば、営業活動を効率的で効果的に推進できます。そのためにアカウントプランでは、ソリューションの芽を体系的にとらえること、つまり課題を体系化しておくことが肝要なのです。

 顧客の課題を抽出することは、ソリューションの芽を見いだすことにほかなりません。顧客のニーズを深掘りするためには、案件化する前のソリューションの芽をたくさんつかんでおく必要があるということです。もちろん、すべての課題を解決できるとは限りませんが、課題を把握していなければ、提供できるはずの機会を逃してしまう可能性があることも事実です。

 ソリューションの芽をつかむために、前回はSWOT分析による課題抽出の方法をご紹介しましたが、今回は直接課題分析の方法と併せ、ステップ2の課題整理・体系化の方法について解説いたします(図1)。

図1●顧客の課題の抽出方法
図1●顧客の課題の抽出方法

直接課題分析による顧客課題の抽出

 顧客の課題を抽出するためのアプローチには、直接課題分析とSWOT分析の二つの方法があります。今回紹介する直接課題分析とは、顧客の公開情報や営業パーソンがヒアリングによって収集した情報から、顧客の課題を抽出する方法です。オーソドックスなアプローチ方法といえますが、具体的にどのような分析をするのか見てみましょう。

1.有価証券報告書による直接課題分析

 顧客が公開している情報にはさまざまなものがありますが、上場企業をアカウントする場合、有価証券報告書は欠かすことのできない分析資料です。各社のホームページにIR情報が掲載されていることがほとんどですから、簡単に入手することができます。

 有価証券報告書には多くの企業情報が公開されており、一般的に図2のような内容が網羅されています。同時連載中の「ソリューション営業に役立つ財務諸表の活用術」と重なる部分もありますが、アカウントプランでの課題抽出の観点からポイントを解説します。「第1 会社の概況」の中には、売上高・利益・資産・キャッシュフローなど「主要な経営指標等の推移」が掲載されています。各指標の意味を理解することで、業績面における課題を把握することが可能です。「従業員の状況」も記載されていますので、一人当たりの各種生産性を分析することもできます。また「関連会社の状況」を読んで、企業グループという視点から課題を検討してみるのもよいでしょう。

図2●有価証券報告書の目次例
図2●有価証券報告書の目次例

 「第2 事業の状況」の中にある「業績等の概要」には、業績とともにその背景や経緯、原因などが書かれています。外部環境の変化が業績に対してどのようなインパクトを与えたのかなど、業績を理解するうえで役立つ資料です。そして「対処すべき課題」においては、顧客が今後どのような課題に取り組もうとしているのかが明示されています。まさに顧客の経営課題そのものといえるでしょう。営業パーソンはこの経営課題を起点として、顧客に対するソリューション提案を発想する思考が重要です。

 有価証券報告書のほかにも、ホームページ上で中期事業計画やビジョンが公開されていたり、経営の指針が示されていたりすることがあります。顧客が目指そうとしている方向を示しているわけですから、その実現のために「何をなすべきか」という視点から、顧客の課題を抽出することが大切です。

2.財務の視点からの課題抽出

 顧客の財務諸表を分析することによって、財務の視点から顧客の課題を抽出することができます。上記の有価証券報告書「第5 経理の状況」の中に、財務諸表が掲載されていますから、これを基に分析します。アカウントする顧客が上場企業でない場合でも、継続取引がある顧客であれば、基本契約に基づいて財務諸表の提示を受けることができるでしょう。ただ、実際に営業パーソンが財務諸表を入手できるかどうかは、状況次第というのが実態です。

 財務諸表の分析では、当該企業の収益性、安全性、成長性、生産性といった側面から分析します。詳細は「ソリューション営業に役立つ財務諸表の活用術」に譲るとして、ここでは代表的な分析指標を図3に示すにとどめます。

図3●財務分析の指標例
図3●財務分析の指標例

3.ヒアリング情報に基づく直接課題分析

 営業パーソンは日常の営業活動において、顧客の課題を直接的に聞き出していたり、現状の問題点を把握していたりするものです。顧客を担当しているSEも多くの情報を持っています。これらの情報を基に顧客の課題を洗い出すことにより、公開情報ではつかめない現場の課題を抽出することができます。

 現状の情報システムがどうなっているのか、どのような要望をもっているのかについては、日常の活動の中で情報を収集することが可能です。また、各部門のエンドユーザーと接することにより、現場ではどのようなことが起こっているのか、何に困っているのかを知ることもできます。しかし、これらのヒアリング情報から顧客の課題を導き出すには、顧客が目指す目標や在るべき姿を把握しておかなければなりません。

 問題とは在るべき姿と現実のギャップであり、このギャップを埋めるための方策が課題です。つまり、現状の悪い状況を知ることができたとしても、在るべき姿が分からなければ課題を抽象的にしかとらえることができません。顧客の各部門で掲げている目標は何か、業務ごとに在るべき姿や目標が示されているかどうか、営業パーソンは日ごろから情報収集をしておく必要があるのです。