売り上げを商品単位ではなく、顧客単位に分解してみることで、顧客の維持・育成・獲得を図って売り上げ倍増を目指す、前田徹哉氏のオリジナルメソッド「顧客勘定」を解説した書籍『売り上げを倍増させる“顧客勘定”マーケティング “赤字顧客”を黒字に変える実践手法』が2021年10月18日、発売された。本書の内容を抜粋してお届けする本連載の第1回は、顧客勘定と商品勘定の違いを解説する。

新刊『売り上げを倍増させる“顧客勘定”マーケティング “赤字顧客”を黒字に変える実践手法』(前田徹哉著、日経BP) 2021年10月18日発行
新刊『売り上げを倍増させる“顧客勘定”マーケティング “赤字顧客”を黒字に変える実践手法』(前田徹哉著、日経BP) 2021年10月18日発行

 売上高には、商品から積み上げる観点と、顧客から積み上げる観点があります。商品から積み上げる考え方を、私は「商品勘定」と呼んでいます。商品勘定とは、棚卸し資産を現金化することによってもたらされる売上高。つまり、「いくらの何がいくつ売れたか」です。小売業であれば、ほぼどこでもやっているでしょう。

 一方、顧客から積み上げる考え方。これを私は「顧客勘定」と呼んでいます。顧客勘定とは、「何人の顧客から、個別にいくらずつ、売り上げを上げたか」という考え方です。顧客が現金と引き換えに商品の所有権を獲得することによってもたらされる売上高ということになります。商品勘定は「いくらの何がどれだけ売れたか」、顧客勘定は「どの顧客がいくらの何をどれだけ買ったのか」。商品勘定も顧客勘定も売上高と一致します(図1)。

【図1】「顧客勘定」と「商品勘定」
【図1】「顧客勘定」と「商品勘定」
売上高=商品勘定=顧客勘定

 ところで、御社の売上高は見えていますか? 多くの人が「分かっているに決まっている!」と答えるでしょう。本当にそうでしょうか?

 小売業を例とします。仮に1本100円の緑茶ペットボトルが前年10本売れたとします。売上高は100円×10本で1000円です。そして今年、同じ商品が12本売れたとします。売上高が1000円から1200円に増加(前年比120%)したことを喜ぶのが、商品勘定の観点です(もちろん、前年割れを悲しむケースも多々あります)。

 では顧客勘定で見た場合はどうでしょう。こんなケースを考えてみましょう。前年度は徳川さんが4本、織田さんが3本、羽柴さんが2本、明智さんが1本買いました。計10本です。本年度は、徳川さん、羽柴さん、明智さん、武田さん、上杉さん、毛利さんが2本ずつ買い、計12本です。この結果をどう見たらいいでしょう(図2)。商品勘定で見た場合も顧客勘定で見た場合も、売上本数は前年度が10本で本年度が12本。売上高は前年度が1000円で本年度は1200円です。しかしながら、「あれっ?」と思うことはありませんか?

【図2】前年度と本年度の顧客別売上金額
【図2】前年度と本年度の顧客別売上金額
新規顧客増で売り上げは増えたが、既存顧客の購入は減少

 一人ひとり、顧客単位で前年度と本年度を比較してみます。まず羽柴さんは前年度200円→本年度200円で変わらず(ランク維持)。明智さんは前年度100円→本年度200円に、100円増加(ランクアップ)。武田さん、上杉さん、毛利さんは、前年度実績なしから本年度は200円購入しています(新規獲得)。ここからが問題なのですが、徳川さんは前年度400円買っていたのが本年度は200円と半分になっています(ランクダウン)。そして織田さんは前年度300円から本年度はゼロ。いなくなってしまいました(離反)。徳川さんの購入金額の減少は200円、織田さんの購入金額の減少は300円です。減少額の合計は500円になります。このインパクトの大きさが理解できますでしょうか?

 売上高で前年比120%達成と喜んでいたわけですが、前年度の売上高1000円の半分の金額である500円は、前年度から本年度にかけて「消失」していたのです。 それでも売上高が減少しなかったのは、既存顧客の明智さんのランクアップ、羽柴さんの維持、武田さん、上杉さん、毛利さんという新規顧客が購入したからです。大きなマイナスを、それ以上に大きなプラスがカバーして、結果として前年比120%という数字になったのです。商品勘定だけではこうした顧客の移動の実態が見えません。見えていないから存在していないのではなく、確実に減少や離反が存在しているのに、それが見えずに表面上の数字だけで一喜一憂するのはちょっと怖いですね。

 このように、顧客のステータスはかなり高い確率で大きく変化します。仮に1人当たり購入金額の上位30%の顧客をAランク、中位の顧客をBランク、それ以外の少額購入の顧客をCランクと定義したとしましょう。前年度Aランクだった顧客すべてが本年度もAランクでいてくれればよいのですが、Bランク、Cランクに下がることがあります。あるいは「購入実績なし」ということも十分起こり得ます。

【図3】顧客移動の5本線
【図3】顧客移動の5本線
顧客の「移動」は5パターン

 反対に、前年Bランク、あるいはCランクでも、本年はAランクになる場合もあります。もちろん、前年購入実績のないユーザーが新規顧客になってくれることもあります。このように顧客のステータスは「移動」するのです。ランクが同じであれば「維持(ランクステイ)」、ランクが上がれば「ランクアップ」、ランクが下がれば「ランクダウン」、購入実績がゼロになれば「離反」、前年度実績なしで本年度実績があれば「新規」という具合に、ステータスは移動していきます(図3)。この移動のベクトルをどのように改善していくか、つまりは「維持・育成・獲得」をどう図っていくかがマーケティングの「肝」になります。

・たくさん買ってくれる顧客を、そのまま維持する
・たくさん買ってくれる顧客に育成する
・たくさん買ってくれる顧客になりそうな顧客を獲得する
 この取り組みが、顧客勘定PDCAサイクルです。

 80:20の法則とも呼ばれるパレートの法則は、多くの小売店で当てはまります。比較的単価が低く嗜好性が高い商品を扱っている企業では、上位30%の顧客で80%の売上高を構成することが多いようです(図4)。また、多くの小売業では上位10%顧客が全体売り上げの50%ほど、上位1%顧客が全体の売り上げの10%ほどを占めているケースが一般的です。上位少数の顧客が大半の売上高を支えているのは、業種を問わず当てはまります。上得意客からそっぽを向かれたら……考えるだけでも恐ろしくなります。

【図4】上位30%の顧客で売り上げ80%のケース
【図4】上位30%の顧客で売り上げ80%のケース
上位30%の顧客の維持、上位30%と同じステータスへの育成、上位30%顧客になり得る新規顧客の獲得に注力することで、売上高の80%を構築

 上位集中度を見る理由は、どのような顧客が会社の売上高を支えてくれているのかを可視化し、維持施策を実行するためです。上位30%の顧客がいなくなったら、売り上げの80%が消滅します。上位客を理解し、維持する施策の投入が必要です。また、上位30%顧客の維持、下位層の顧客を上位30%相当のステータスに育成、上位30%顧客になり得る新規顧客の獲得に重点化することで、売上高の80%を構築。あとの20%分はフォロワー層から結果としてついてくると腹をくくることも必要です。


マーケター必読の書
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