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耳管開放症の治し方 症状は、自分の話し声が耳の中で響く…「ピン」挿入する治療法も

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 耳管開放症は、耳と鼻の奥をつなぐ耳管が常時開くことで、自分の声や呼吸音が耳の中で大きく響く病気です。2020年12月に「耳管ピン手術」が公的医療保険の対象になり、従来の治療法で効果が見られなかった患者の選択肢が広がっています。(草竹敦紀)

約3.5センチの細い管

 耳管は大人では長さ約3・5センチの細い管で、通常は閉じています。飛行機の着陸時やトンネルに入った時に気圧の変化で耳が痛くなることがあります。唾液を飲んだり、あくびをしたりすると解消できるのは、耳管が一時的に開くためです。

 ところが耳管がいつも開いてしまうと、▽自分の話し声が耳の中で大きく響く▽自分の呼吸音が「ゴーゴー」「ザーザー」と聞こえる▽耳が詰まったように感じる――などの症状が出ます。「お辞儀」のような前屈姿勢をとると症状が軽くなります。

 患者は60~70歳代の男女や、20~30歳代の女性に多い傾向があります。病気の手術や加齢による体重減少で、耳管の周りの脂肪が薄くなると発症しやすくなります。ピルの服用、ストレス、脱水なども原因になると指摘されています。

 治療では、まずは生活指導を行い、水分補給やストレス解消を勧め、深刻な中耳炎の原因になる鼻すすりをしないよう呼びかけます。あわせて、血行を改善する漢方薬などで薬物療法を行います。医療用ジェルや生理食塩水を鼻から耳管に注入すると、一時的に症状が和らぐこともあります。

82%で有効性確認

 日本耳科学会の指針では、こうした治療を行ってもつらい症状が6か月以上続くなどの基準を満たした患者が、耳管ピン手術の対象になります。ピンはシリコーン製で、サイズは8種類あります。手術では、鼓膜に開けた約3ミリの穴からピンを耳管に挿入します。1~2泊の入院か日帰りで済むことが多く、費用は日帰りで3割負担の場合は7万円程度です。

 静岡県の50歳代のパート女性は1月、日大板橋病院(東京)で左耳にピンを入れる手術を受けました。子どもの頃から耳の中で声や呼吸音が響くなどの症状が続いたそうです。数年前に自宅近くの病院で耳管開放症と診断されました。女性は「これまで雑音しかない人生でした。世の中がこんなに静かだと知って、手術直後には涙が出ました」と喜んでいます。

 保険適用前に行われた治験では、ピンを挿入した患者の82%で有効性が確認されました。日大主任教授の大島猛史さんは「今まで難治性の患者さんには良い治療法がなかった中で、効果がある」と話します。

 手術ができるのは日本耳科学会が認定した全国の22施設で、20年12月~22年8月に440件以上行われました。施設数は、今後も増える見通しです。

 仙塩利府病院(宮城県利府町)耳科手術センター長の小林俊光さんは、1990年代からピンの開発に取り組んできました。当初は材料に耳の軟骨を使ったり、耳管が開いた時に落下しないようピン上端部に突起を付けたりと、改良を繰り返しました。小林さんは「患者さんのつらさを何とかしようと取り組んできた。満足度をさらに上げられるように努力したい」と話しています。

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